金剛石 11


「以上だ、何か質問は?」
 相変わらず忙しい司令室の中、普段の業務と突発的に起こる事件をそれぞれにスムーズに対処出来るよう、個々への割り振りを整理したロイが締めくくるように言う。手を上げたブレダ以外のメンバーが執務室から出て行こうとすれば、ロイが背の高い後ろ姿に声をかけた。
「ハボック」
 かかった声に足を止めたもののハボックは振り向かない。ブレダが気を遣って出て行こうとするのを止めて、ロイは続けた。
「今日の昼の会食だが、時間が三十分遅くなったそうだ。だから車を───」
「そういうの、全部ブレダに回して下さいって言ったっスよね?」
 ロイの言葉を遮って、ハボックが振り向きざまに言う。ハボックはロイの顔を睨みつけて言った。
「それとオレを特務に戻してくださいとも」
 苛烈なまでの光をたたえる蒼い瞳をロイは真正面から受け止める。そうして「何故?」と問えば狼狽えたように蒼い視線の方が逸らされた。
「なんでって……」
 散々に悪い噂を聞かされている上にこの間の事故だ。いい加減懲りてもよさそうなものなのに平気な顔でそんな事を言うロイにハボックは思い切り舌打ちした。
「アンタ馬鹿じゃないの?それとも死にたいんスか?」
「少なくとも私に自殺願望はないな」
「だったら……ッ!ブレダもなんか言ってやれよッ」
 ハボックは黙ったまま事の成り行きを見ているブレダにその矛先を向ける。ブレダは困ったように肩を竦めて言った。
「俺は上官に意見する立場にないからな。今は意見する事もないし」
「お前がこれまで見てきた事を言えばいいだろうッ!」
 ブレダの言葉にハボックがカッとなって言う。ブレダは一つため息をついて言った。
「わざわざ大佐に進言しなくちゃいけないような事は見てないぜ」
「お前ッ」
「それに大佐はちゃんと色んな事見えてる」
 そう言えば見開く蒼にそっと息を吐いてブレダはロイを見る。
「俺の話はまた後で改めて伺います」
「すまんな」
 ロイが頷くとブレダは執務室を出て行く。パタンと扉が閉まって、執務室には二人きりになった。
「ハボック、私はお前の扱いを変えるつもりはないし、特務に戻す気もない。これから先もずっとな」
 二人きりの微妙な空気を切り裂くようにロイが言う。それにハボックが何か言う前にロイが続けた。
「私はお前のその瞳が綺麗だと思う」
「ッ?!」
「とても綺麗で……とても好きだ」
 そう言ってロイはハボックを真っ直ぐに見つめる。唇に薄く笑みを刷いて見つめてくるロイにハボックは何度も言い掛けては言葉を飲み込んだ。
「なに馬鹿な事言って……」
 なんとか絞り出すように言えばロイの笑みが深まる。
「馬鹿な事?私は本当の事を言っているだけだ」
「本当な訳ないっしょッ?!いい加減な事言うなッ!!」
 全身の毛を逆立てるようにして怒鳴るハボックをロイはじっと見つめた。怒りに燃えているくせにどこか不安げな光をたたえる蒼い瞳が愛しくて堪らなかった。
「ハボック、私は」
「もう何も聞きたくないっス!!」
 ハボックは耳を押さえてそう叫ぶと執務室を飛び出していってしまう。
「ハボック、私は……」
 遠ざかる足音を聞きながらロイは伝えられなかった言葉をそっと抱き締めた。


2011/03/01


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