金剛石 1


『ロイ、アイツはやめておけ』
 受話器の向こうでヒューズが言う。こんな切羽詰まったヒューズの声など聞いたことがなくて、滅多に聞けない親友の声に思わずこみ上げる笑いを噛み締めてロイは答えた。
「もう決めたんだ、ヒューズ」
 今更変える気はないと告げるロイに、だがヒューズは食い下がる。
『どうしてアイツが特務にいたか判るか?誰もアイツを使いこなせなかったからだ』
「私なら使いこなしてみせるさ」
『ロイ!』
 根拠のない自信に裏付けられた言葉にヒューズは苛々として言った。
『今のお前と同じ事を言ってアイツを組織の中に組み込もうとした奴らがどうなったか知ってるか?誰一人もう軍にいないんだぞっ』
 ヒューズの言葉にロイは僅かに眉を顰める。
『挙げ句アイツについたあだ名を知らない訳じゃないだろう?』
「ホープ・ダイヤだろう?」
『それを知ってるなら今からでも遅くない、ロイ、アイツはやめてお───』
「もう決めたんだ」
 ロイはヒューズの言葉を遮ってそう言うと電話を切ってしまう。深いため息をついてロイがそっと目を閉じた時、コンコンと執務室の扉を叩く音がした。
「───入れ」
 キュッと唇を噛んでロイは入室を許可する。そうすればガチャリと扉が開いて、背の高い金髪の男が入ってきた。男はロイの前まで来るとピッと敬礼してみせる。
「本日付けで司令室配属になりましたジャン・ハボック少尉であります」
 言ってハボックはうっすらと笑みを浮かべる。彼の蒼い双眸がキラリと硬質な輝きをみせるのを見て、ロイは背筋を這い上がる何かにギュッと手を握り締めた。
 持ち主を不幸に追い込むという伝説を持つ蒼い宝石ホープ・ダイヤ。それと同じ輝きの瞳を持つ男を身近に置けば、自分の未来に待つのは破滅かもしれない。
(それでも私はコイツが欲しいんだ)
 あの日偶然ハボックと出会ってからこの蒼い魔性の輝きに魅入られてしまった。
「ロイ・マスタングだ、よろしく頼む」
 ロイは言って立ち上がるとハボックの瞳を真っ直ぐに見つめた。


2011/01/28



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