第六章


「どうした、ハボック。顔色がよくないぞ」
 ロイはグラスを片手にハボックを見上げて言う。コトリと手にした皿をテーブルに置いたハボックの顔は血の気が引いて酷く汗をかいていた。
「悪酔いしたんじゃねぇの?」
 向かいのソファーに座ったヒューズがグラスに口をつけながら言う。ハボックはチラリとヒューズに目をやったがロイに向かって言った。
「滅多に飲めないイイ酒だから過ごしちまったのかもしれないっス…」
 そう言ったハボックはキッチンに行こうとしてふらりとよろめく。ロイが慌てて手を伸ばすより先にヒューズがハボックの体を受け止めた。
「…大丈夫か、少尉」
 抱きかかえたその耳元に囁けばハボックの体がビクリと震える。ハボックは数回息を吐いて整えると言った。
「すんません、オレ、帰ります…」
「帰る?そんな状態じゃ無理だろう?泊まっていけ、ハボック。部屋ならいくらでもあるんだから」
 中腰になって身を乗り出すロイの言葉にハボックは首を振る。
「帰ります…平気っスから…」
 ハボックは必死の思いでそれだけ言う。セラーで詰め込まれた異物が喋ったり身動きする度、ハボックの中でぶつかり合うようで、ハボックは悲鳴を上げないようにするだけで必死だった。
「無理だろう。ロイがああ言うんだから泊めて貰えばいい」
 そう低く囁くヒューズをハボックは唇を噛み締めて睨みつける。その視線をものともせずヒューズはロイに言った。
「ロイ、お前は明日早いんだろう?コイツの面倒はオレが見てやるから―――」
「平気ですっ、帰れますっ」
 ヒューズの言葉を遮ってハボックが叫ぶ。無理矢理ヒューズの腕から自分の体をもぎ放した途端、体の中のコルクが前立腺を掠めてハボックは声にならない悲鳴と共にグラリと倒れた。
「ハボックッ!」
 声と共に今度こそロイの手がハボックの体を支える。僅かに震える体をその腕に抱き締めた。
「こんな調子で一人には出来ないだろう。今夜はここに泊まれ、いいな」
「たいさ…っ」
 ロイの言葉にそれでも頑なに首を振るハボックに焦れてロイはハボックの体を抱き上げる。息を飲んでそれでも抵抗することも出来ずにハボックはロイの胸に縋りついた。
「ヒューズ」
「ああ、判ってるって。早く休ませてやれよ」
「すまない」
 ロイはそう言うとハボックを腕に抱きかかえたままリビングを出て行く。大事そうにハボックを抱くロイの背をヒューズは昏い瞳で見つめていたのだった。


2008/07/02

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