第二十三章 |
夕暮れの街をヒューズはホテルに向かって歩いていた。今日は外部で行われていた会議に出席していたのだが、夜までの予定が思いの外早くに終わり、いい加減疲れていたヒューズは元々直帰の予定だったのだからと司令部には戻らずに済ませていた。 まだ夜になるには少し時間のある通りは、夕方の買い物客が大勢行き来している。夜とは違う種類の人の群に混ざって、ゆっくりと歩いていたヒューズは見慣れた金髪が歩いているのを見つけて足を止めた。 ハボックはスラリと高い背を少し猫背に丸めて通りを歩いていく。チラチラとあちらこちらの店に目をやったものの、結局ホテルに一番近い店に入っていった。 「アイツ、いつもあそこで買ってるのか……」 若干高めではあるが質のよいものを取り扱っているその店は、数少ないヒューズの行きつけの店だ。そう言えば以前ロイが来た時にワインを買いに行ったのもあの店だった。 「ロイが気に入ってた店に……」 ホテルの部屋で飲もうとワインと軽く摘むものを買いに入ったその店をロイは気に入って、それ以来酒と摘みを買うのはあの店と決めていたのだ。そんな事など知るはずのないハボックが同じ店に出入りしているのを知れば、ヒューズの胸がシクシクと痛んだ。 ヒューズはハボックが入った店に入ると中を見回す。背の高い姿が精肉のコーナーで注文しているのを見つけると、背後からそっと近づいた。 「そのステーキ肉ください」 「一枚ですか?」 店員が聞き返すのに頷いてハボックは金を払う。包んでもらった肉を受け取ると店を出ていくハボックの背を見送って、ヒューズは店員に近づくと尋ねた。 「おい、アイツ、いつもここに買いにくるのか?」 「ああ、ヒューズさん」 顔見知りの店員はヒューズの顔を見てにっこりと笑う。 「お知り合いの方ですか?最近よく来られるんですよ。いつも一人分の肉や魚を買って行かれるんですが一人暮らしで自炊してるんですかね」 男なのに偉いなぁと、自分には出来ないと感心して言う店員の声もヒューズには聞こえていなかった。 「一人分…?じゃあアイツ」 『すんません、先に食っちまいました』 そう言って笑うハボックの声が頭に木霊してヒューズは眼鏡の奥の目を見開く。 「ヒューズさん?」 次の瞬間、もの凄い勢いで店を飛び出していくヒューズに、店員が驚いて声をかけたがヒューズはそんな事には構っていられなかった。店を飛び出し一直線にホテルに向かう。エントランスホールを駆け抜けエレベーターに飛び乗ると五階のボタンをバンバンと叩いた。五階についたエレベーターの扉が開くか開かないうちに体をねじ込むようにして飛び出すと玄関に走り寄る。ガチャガチャとと鍵を開けると中へと飛び込んだ。 「あれ?早かったっスね、中佐」 ハアハアと息を弾ませて立ち竦んでいるヒューズに、キッチンから顔を出したハボックが目を丸くする。 「今すぐ用意するっスから」 「お前の分は?」 キッチンに戻ろうとするハボックの背に向かってヒューズが尋ねた。その声に振り向くハボックをヒューズは険しい顔で睨んだのだった。 2010/04/19 |
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