第二十二章


 その夜からヒューズが家に帰れば必ず食事の用意がされているようになった。メニューはヒューズの好きなラムチョップであったり、普段あまり食べない魚の蒸し焼きだったりしたが、総じてどの料理も美味しかった。そしてテーブルに並べられているのは決まって一人分だけだった。
「すんません、先に食べちまいました」
 ヒューズが殆ど定時に上がってまっすぐ帰ってきた時間でも、ハボックはそう言って申し訳なさそうに笑った。
「……別に飯を作れと言った覚えはないぞ」
 勝手に自分の前から消えることは赦さないとは言ったが、それ以上ハボックに何かを要求したつもりはない。
「……オレの料理は口に合わないっスか?」
 そう尋ねてくるハボックに「美味い」とは答えず、ヒューズは一人で黙々と用意された食事を口にする。おそらくロイとの仲を引き裂いた自分とは食事など一緒に取りたくはないのだろう。そう考えれば沸き上がる胸の痛みに、ヒューズは気づかぬフリでガツガツと料理をかき込んだ。

「くそ…ッ、どこに行ったんだ、ハボック!」
 ほんの一瞬目を離した隙に姿を消してしまったハボックを、ロイは気狂いのようになって探し回ったが幾ら探してもハボックを見つけることは出来なかった。
「大佐、一体ハボック少尉と何があったんですか?」
 本当の理由を言うことも出来ないでいるロイに、ホークアイが尋ねる。
「中尉……」
 自分がハボックを想っていることを口にするのは容易い。だが、ハボックが姿を消した理由を説明するにはヒューズの事を話さない訳にはいかず、ハボックが戻ってきた時の事を考えればおいそれとは口に出来なかった。
「すまない、中尉。何が起きたのか説明する事は出来ないが、もう少し時間をくれ。必ずハボックを連れ戻すから…ッ」
「大佐」
 悲痛な叫びにも似たロイの言葉にホークアイが綺麗な眉を寄せる。
「でも、みんな疑問に思い始めています」
 日が経つにつれ流石に皆がハボックの不在を訝しみ、口にしないまでもロイに説明を求める視線を向けてきていた。ロイにもそれはよく判ってはいたが、ハボックがロイへの想い故にヒューズにレイプ紛いの事をされていたとはどうしても言えなかった。
(ハボックをこれ以上傷つけるような事はしたくない。それに……)
 ヒューズに対して抑えきれない怒りを感じながらも憎むことが出来ないのは何故だろう。
「すまない、もう少し……もう少しだけ時間をくれ」
 ロイは呻くように言うと、窓の外に広がる空を見上げたのだった。


2010/04/08

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