第二十章 |
結局互いにまんじりともせぬまま、ヒューズとハボックはセントラルのプラットフォームに足をおろした。改札を抜けたヒューズがそのまま朝の街を歩いていこうとすれば、ついてくる筈の足音が聞こえないことに気づいて立ち止まる。振り返るヒューズの目に改札を出たところで立ち竦むハボックの姿が映って、ヒューズは舌打ちすると足音も荒くハボックの傍まで引き返した。 「なにしてる、さっさと来い、少尉」 「中佐、オレは……」 「お前には何か言う権利も選ぶ自由もねぇんだよ。大人しく俺と一緒に来い」 そう冷たく言い切られて空色の瞳が揺れる。ヒューズはハボックの手首を掴むと返事を待たずに歩き出した。 「中佐っ」 もの凄い勢いで歩いていくヒューズに引っ張られて、ハボックは何度もつんのめりそうになる。乱れた足音を立てながらヒューズについて歩きながらハボックが言った。 「手、離してくださいっ」 「駄目だ」 「ちゃんとついて行くっスから!」 そう言うハボックにヒューズは足を止める。ヒューズの手から自分のそれを引き抜こうとしたハボックはグイと乱暴に引っ張られて悲鳴を上げた。 「お前には何か言う権利はないと言っただろう。黙ってついてくりゃいいんだ」 「ちゅうさ……」 見開く空色の瞳にそれ以上言うことはせず、ヒューズはハボックを引きずるようにして連れていく。五階建てのホテルに来ると扉をくぐり中へと入っていった。エレベーターを使って上がった先のフロアに二つだけある扉のうち一つを鍵を使って開ける。大きな窓に面したリビングへハボックを連れてくると漸く手を離した。 「ホテル住まいなんスか?」 手に持っていた小さなボストンを部屋の隅に放り投げるヒューズに向かってハボックは尋ねる。ヒューズは奥のキッチンに一度消えるとミネラルウォーターのボトルを手に戻ってきた。 「ここなら掃除も洗濯も電話一本で頼めるからな」 ボトルから直接飲みながらヒューズが答える。ハボックは水を飲むヒューズを暫く見つめていたが、窓に近づいて空を見上げた。 「眺めだけはいいだろう?」 ヒューズが言うだけあって、窓からはセントラルの街並みが一望できる。ヒューズはボトルをリビングのテーブルに置いて言った。 「俺はこれから司令部に行ってくる。お前は俺が帰ってくるまでここにいるんだ」 その言葉にハボックがヒューズを振り向く。なんの感情も伺えぬ空色の瞳にヒューズは何故だか苛々してハボックに掴みかかると、喉元に手を当て窓ガラスに押しつけた。 「逃げ出せないように尻ん中に玩具突っ込んでおいてもいいんだぜ?」 「……そんな事しなくてもここにいます」 喉を締め付けられているせいで掠れてはいるがはっきりとした声でハボックが答える。その答えにムッとしたようにハボックを突き飛ばせば、よろめいて背後のガラスに背を預けるハボックを睨んでヒューズは言った。 「逃げたりしてみろ、ただじゃおかない。お前も───ロイも」 そう言えば僅かに見開かれた瞳に漸く揺れる感情の波を見取って、ヒューズは薄く笑う。 「行ってくる」 そう言い捨ててヒューズはハボックを残して部屋を後にした。 09/11/26 |
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