第二章


「ハボック、おい、ハボック?」
 ぼんやりと司令室の窓に寄りかかって外を眺めていたハボックは、自分を呼ぶ声にハッとして振り向く。窓から射し込む光の中に心配そうな顔をしたロイが立っていた。
「どうした?顔色がよくないな、大丈夫か?」
 呆然としたような、そんな表情を浮かべるハボックを心配してロイは聞く。ハボックはそんなロイを息を詰めるようにして見つめていたが、フッと微笑むと答えた。
「なんでもないです。ちょっと寝不足なんスよ」
 そう言うハボックにロイも安心したように笑う。
「そうか、ならいいんだが」
 ロイはそう言うとふと思い出したように言った。
「そう言えばヒューズの用事ってなんだったんだ?」
 何気ないロイの質問にハボックの体がギクリと震える。体の奥深くに残る痛みから必死に目を逸らすと答えた。
「別に大した用事じゃないっス。例によって古い資料探し」
「またか!アイツ、人の部下をなんだと思ってるんだ」
 ブツブツと文句を言うロイをハボックはそっと伺う。
『どうして、だって?そりゃロイがお前を好きだなんて言ったからだよ』
(大佐がオレを好き…?)
 そんなことは赦さないと、だからお前を汚すのだと言って自分を無理矢理抱いた男のことを思い出してハボックは震える息を吐いた。
(大佐がオレを好きだなんて、そんなの、中佐の思い込みかもしれないじゃないか。そんなことあるわけないし、それに、もしそうだとしても…)
 ヒューズの思うまま蹂躙され、その身の奥深くをヒューズの熱で汚された自分を思えば自然、涙が零れそうになる。
「ハボック?」
「ふああああ〜〜…」
 押し黙ってしまったハボックを不思議そうに覗き込むロイの前で、ハボックは思い切り欠伸をした。大欠伸で目に涙を滲ませるハボックにロイは呆れたため息をつく。
「お前なぁ、仮にも私はお前の上官だぞ。上官の前で涙が出るほどの大欠伸をするヤツがいるか?」
 そう言われてハボックは頭をかくと言った。
「顔洗って目、覚ましてきます」
「そうしろ」
 くすくすと笑うロイを置いてハボックは足早に司令室を出る。パタンと扉を閉じた途端、その空色の瞳からぽろりと涙が零れ出た。


2007/12/7

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