第十七章


 泣きつかれてぼんやりと腕の中で宙を見つめているハボックの体を今一度ギュッと抱き締めるとロイはハボックを抱えあげる。そうすればただなされるままにロイの腕に身を預けるハボックにロイは胸が痛んだ。寝室を出てハボックを抱いたまま浴室の扉を開けると中へ入りハボックを下ろす。シャワーを手に取るとコックを捻り、ぬるめの湯を出した。驚かさないようにと足先にそっとかければハボックがピクリと震えた。
「あ
「大丈夫か、ハボック」
 ぼんやりと霞がかかっていたようだった瞳がゆっくりと焦点を結びロイを見る。ロイは優しく微笑みかけるとハボックに手を伸ばした。
「シャワーを
「自分でできます。貸して下さ
 緩慢な動きで手を差し出したハボックはバランスを崩して座っていた低い椅子から転げ落ちそうになる。ロイは慌ててその体を支えると言った。
「いいから、じっとしていろ」
「でもっ」
「いいからっ」
 ロイはそう言ってハボックを椅子に腰掛けさせるとシャワーを浴びせかける。一通り流すとハボックの脚に手をかけた。
「やっ」
 その意図を察してハボックが身を捩る。逃げようとするその体を引き戻してロイは言った。
「そのままにしておくわけにいかないだろうっ」
「ヤダッ、触んないでッ!!」
「ハボックっ」
 ロイはハボックの体を背後から抱き締めるようにするとその脚の付け根へと手を伸ばす。
「ヤアッ、離せッ!」
「ヒューズのものがお前の中にあるなんて耐えられないんだッ!!」
 ロイが思わずそう叫べば腕の中のハボックの体が大きく震えた。凍りついたように動かなくなった体をそっと抱き締めるとロイはその耳元に囁く。
「すまない
 それが今口走ってしまった言葉に対する謝罪なのか、嫌がる体を押さえつけて処理する事への謝罪なのか、はっきりとは告げぬままにロイはハボックの蕾へと手を延ばした。酷い仕打ちに紅く腫れたそこに指を差し入れればハボックの体がビクリと震える。ロイはなるべく性的な意味合いを感じさせないように手早く中に注ぎ込まれたものをかき出していった。とろとろと零れでる白濁にロイは歯を食いしばる。ハボックの顔を覗き見れば血が滲むほどに唇を噛み締め、ギュッと閉じた瞳からはポロポロと涙が零れていた。処理を終えるとロイはハボックの体を洗ってやり、タオルに包むと浴室を出る。自分の寝室へハボックを連れて行きベッドに下ろすと、自身も濡れた服を着替えた。
「ハボック……
 そっと髪をかき上げハボックの顔を覗き込む。憔悴しきったその顔に唇を震わせると告げた。
「お前が好きだ、ハボック。ずっとずっと好きだった。もっと早くそう言っていれば、こんなことには……ッ」
 ロイは吐き出すようにそう言うとハボックの体をかき抱く。ギュッと抱き締めるロイの背に、だがハボックの腕は回されなかった。
「ハボックハボ……
 名を呼びながらロイは唇を重ねようとする。だが、ハボックは顔を背けロイを押し返すと言った。
「ダメ、ダメっス、たいさ
「どうしてだ?お前だって私のことをッ」
 ロイがハボックの腕を掴んでそう言えばハボックは顔を歪める。
「見た、でしょ?オレが中佐に抱かれてたの。今日が最初じゃない、もう何度もオレ、中佐に抱かれてたっス。中佐に体中弄られて感じまくって何度イッたかしれない。中佐のもん、突っ込まれて中に出されて……。とても口に出して言えないこともされたっス。でもオレ、逃げなかった。逃げようと思えば逃げられたかもしれないのにそうしなかったんスよ?中佐が言うようにオレなんかがアンタのこと好きだなんて赦されないんだ」
「ハボックッ」
 抱き締めようとロイが伸ばした手をハボックは拒んだ。悲しそうに笑うと言う。
「触んないで、たいさ。アンタまで汚れちまう」
「バカを言うなッ、ヒューズが言う事など気にする必要がどこにある?傷つけられたのはお前で、恥じる事など何ひとつありはしないんだぞっ!何もかもヒューズがッ」
 そう怒鳴るロイをハボックは辛そうに見つめていたがポツリと呟いた。
「ごめんなさい
「え?」
「中佐はこれまでもこれからもアンタにとって必要な人なのに。アンタが高みを目指すなら中佐の助けが絶対必要なんだ。それなのにこんなことになっちまって。何もかもオレがアンタを好きになんかなったりしたから!」
 ハボックは呻くようにそう言うと手のひらで顔を覆う。
「中佐の言ったとおりっス。オレがアンタを想うなんて赦されない、オレがアンタを好きになったりしなければッ!」
「違うっ!それは違う、ハボック!お前は何一つ悪いことなんてしていない、人を想う事に赦すも赦されないもないだろうっ!!」
 ロイはそう声を張り上げると強引にハボックの手を引き剥がした。白い頬を流れる涙をそっと拭って言う。
「お前を愛してる、ハボック。お前がヒューズのものなのかと思った時は絶望で息ができなくなった。お前の気持ちが私にあると知って、飛び上がるほど嬉しくて、それと同時にお前を傷つけたヒューズが焼き殺してやりたいほど憎かった。お前がヒューズを好きだと言うなら諦めるしかないだろう。だが、お前が私を好きなのならッ」
 だんだんと興奮して声が高くなっていくロイにハボックは激しく首を振った。ロイが好きであればあるほど、ハボックにはロイを受け入れることは出来なかった。
「も、何も言わんでくださいそれ以上、何も聞きたくないっス!」
「ハボック!!」
 ハボックの肩を掴んでグッと上から圧し掛かるように覗き込むロイにハボックの体が強張る。その瞳に浮かぶ怯えた色にロイはハッとして力を緩めた。
「ハボック、私は」
 ヒューズのように力づくでどうかしようとしたのではないと告げようとして、だが、ハボックはそんなロイから目を逸らす。唇を震わせると小さな声でハボックは言った。
「一人にしてくださいお願いっスから
「ハボック
 震える声に今これ以上何か言ってもハボックを追い詰めるだけだと察して、ロイはその手を離す。ロイはハボックの額にかかる金髪をかき上げると言った。
「判った。隣の部屋にいるから。1時間したら様子を見に来る。いいな」
 ロイの言葉に、だがハボックは瞳を閉じたまま答えなかった。ロイはもう一度ハボックの髪をくしゃりと握ると手を離し部屋を出て行く。扉のところから振り返れば、ハボックは横たわったままただぼんやりと天井を見つめていた。駆け戻って抱きしめて口付けたい衝動に駆られて、ロイはギュッと手を握り締める。一つ息を吐いて気持ちを押さえ込むと部屋を出てそっと扉を閉めた。そうして。

 一時間経って戻ってきたロイが見たのは空っぽの部屋と大きく開け放たれた窓だった。



2008/10/13

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