第十五章


 ガタンと何かが倒れる大きな音が聞こえて、ロイは抱えていた頭を上げる。なんだろうとあたりを見回して、どうもその音が部屋の外から聞こえてきた事に気がついた。
「なんだ?」
 ただ、テーブルの端に体をぶつけただけかもしれない。何かを取り落としただけなのかも。だが、そのどれとも違う気がしてロイはゆっくりと立ち上がった。音は二部屋先のハボックの寝室から聞こえたような気もする。そう思えば気になって気になってロイはウロウロと部屋の中を歩き回った。物音が聞こえないかと耳を澄ましてみたがそれ以上聞こえるものはなく、ロイは苛立たしげに髪を掻き乱す。何度も大きく息を吸って吐いてを繰り返して気持ちを落ち着けようとしたが、逆に一層苛立たしさが増しただけだった。
「クソッ」
 ロイは短くそう怒鳴るとベッドに腰を下ろす。そのまま体を倒して目を閉じたがすぐさま飛び起きると再びウロウロと歩き回った。
「バカか、私は。気になるなら見にいけば済むことだろうがッ」
 なんてことはない、ただ物を落としただけなのかもしれない。「どうした?」と尋ねれば「驚かせてすみません」と笑う空色の瞳すら思い浮かんでロイはグッと手を握り締めた。だが、実際にはロイは部屋を出て行くことすら出来ず、ただウロウロと部屋の中を歩き回るだけだ。そんな自分に嫌気が差して、ロイはバンッとベッドサイドのテーブルを叩くと言った。
「今すぐハボックのところへ行け、ロイ・マスタング。そうして自分の目で何でもないんだと確かめて来いッ」
 なんでもないことだと自分に言い聞かせる事の空しさにロイはグッと唇を噛み締めると寝室のノブに手をかける。そっと扉を押し開くと薄闇に沈む廊下へと出た。廊下の先へと目をやれば細い光が零れている。ハボックの部屋の扉が透いているのだと気付いてロイは僅かに目を見開いた。ほんの少し迷ってそれから足音を忍ばせてその光源へと近づいていく。覗き見るのではなく、普通に声をかけなければと思った時、小さな悲鳴が聞こえてロイは体を強張らせた。

「アアッ……ッ、も、無理ッ」
 ヒューズの牡を口に咥えて奉仕していたハボックは、柔肉を抉るバイブの振動に顔を離すと悲鳴をあげる。ヒューズの脚に縋りつくと必死に訴えた。
「お願いッ、抜いてッ……も、ヤダァッ!」
 泣きながら縋りつくハボックの顎を手ですくい上げるとヒューズは薄っすらと笑う。
「しょうがねぇなぁ、もう出来ねぇのか?ん?少尉」
 優しさすら滲ませてそう聞くヒューズにハボックはコクコクと頷いた。もう、抗う気力すらなさそうなハボックにヒューズは満足げに笑うとその体を引き上げた。
「仕方ねぇ、今日はこの辺で赦してやるよ」
 ヒューズはそう言うとハボックの体を抱えたままその蕾へと手を回す。震えながらうねうねと蠢く凶器に手をかけると一息に引き抜いた。
―――ッッ!!!」
 ハボックは引き抜かれる衝撃に声にならない悲鳴をあげると背を仰け反らせる。次の瞬間ぐったりともたれかかってくる体を優しい仕草で抱き締めるとヒューズはハボックの唇を奪った。
「ん……ぅん」
 口内を弄る舌をハボックは拒む事も出来ずにただ受け入れる。無意識に零れる甘い吐息にヒューズはうっそりと笑うと耳元に囁いた。
「まだ終わりじゃねぇぞ、少尉。俺はまだ満足してねぇんだからよ」
 ヒューズはそう言うと出窓の台になっている部分に体を預けなおし、ハボックの体を背後から抱え込む。力の抜けた長い脚を大きく開くとズブズブと突き入れた。
「あ、あ、あ」
 ハボックの涙に濡れた瞳が大きく見開かれ、金色の頭をヒューズの肩に預けるように首を仰け反らせる。熱い内壁が自身に絡み付いてくるのを感じてヒューズはクククと笑った。
「相変わらず貪欲だねぇ、お前のココは。俺が欲しくて堪んねぇらしい」
 背後からそう囁く声にハボックの瞳から涙が零れ落ちた。

 悲鳴に引き寄せられるように一歩踏み出したロイは扉の隙間から見えた光景に凍りついた。
 全裸で足元に蹲るハボックの顎をヒューズがすくい上げ何かを囁く。二言三言言葉を交わすとその長身を引き上げ蕾に埋め込まれた玩具を引き抜いた。ぐったりと力の抜けたハボックにヒューズは優しく口付けるとその体を抱きこみ、玩具で緩く解かれた蕾へ己を沈めていった。
(う、そだそんな
 涙を零しながらヒューズのなすがままに体を震わせるハボックの姿をロイは食い入るように見つめる。ずっと想い続けていた相手が自分の親友である男にその身を任せていることがロイには俄かには信じられなかった。
(どうして、ハボック?どうしてだ?ヒューズッ!!)
 自分のハボックへの想いは知っているの筈なのに、とロイの心にヒューズへの憎しみが湧き起こる。
(何故だ、何故私の気持ちを知っていながらハボックと……ッッ!!)
 怒りと憎しみにギリと歯を食いしばって、だが今度は気持ちを知っていた故にハボックとのことを話せなかったのかもという考えがロイの胸に浮かんだ。歯が折れんばかりに食いしばって、爪が刺さるほど手を握り締めてロイはブルブルと震える。どういう経緯があるにせよ今目の前にある光景が現実でヒューズとハボックが恋人同士なのだとロイに告げていた。
(なんて滑稽なんだ……
 自分の想いを聞くたび、ヒューズはどう思っていたのだろう。きっと哀れみと蔑みと、そんな思いに駆られていたに違いない。
 もう、それ以上二人の姿を見ていることが出来ずに、ロイがそっとその場を立ち去ろうとした時。
「お前みたいな野郎がロイを想うなんてことは赦されねぇんだよッ」
 罵るヒューズの声とハボックの悲鳴が耳に飛び込んでロイはギクリとして足を止めたのだった。



2008/09/14

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