第十三章


「なんだ、少尉。ちっとも食ってないじゃねぇか」
 と、3人で囲んだ夕食の席でヒューズが言う。夕飯くらい作れると言い張るハボックを、調子が悪い人間にそんな事をさせられないと言うロイと、言うことを聞けの一言で黙らせたヒューズのおかげで、デリバリーでの夕食となっていた。
「ほら、お前、マヨネーズで和えたの好きだろう?さっきもロイが作った卵のサンドイッチ、美味い美味いって食ってたもんな」
 ヒューズはそう言うとカボチャのサラダをハボックの皿に取ってやる。ハボックはチラリとヒューズを見ると小さな声で言った。
「自分で取れますからそんな事してくれなくていいっス」
「何言ってんだ、ほっといたらお前、ちっとも食べねぇだろうが。ほら、食わせてやろうか?」
「いいっス!」
 スプーンで掬って口元に持っていくヒューズにハボックは顔を紅くして声を張り上げる。それから自分の声の大きさに動揺したようにキュッと唇を噛むと俯いた。
「ほんとに一人で食いますから…っ」
「んだよ、心配してやってんのに。なぁ、ロイ」
「えっ?…ああ、そうだな」
 突然話を振られてハボックの様子をじっと見ていたロイは慌てて答える。楽しそうにハボックを構うヒューズと、困り果てた様子のハボックを見つめて、ロイは僅かに顔を顰めた。
(ヒューズがハボックにちょっかい出してその反応を見て楽しむのは昔からのことじゃないか。なのにどうしてこんなに気になるんだ…?)
 何がおかしいかと聞かれれば明確な答えなどない。だが小さかった違和感は一度気にかけてしまえばみるみる内に大きくなってしまう。
(ハボック……ヒューズ?)
 じっと見つめ続ける視線の先でヒューズがハボックの頬に手を伸ばした。
「付いてんぜ、少尉」
「……ッッ」
 そう言ってヒューズは指先についたマヨネーズをペロリと舐める。ハボックは顔色を変えるとガタンと立ち上がった。
「すんませんっ、オレっ…部屋で休んでも
――
「駄目だ」
 その場から逃げ出そうとするかのように口走ったハボックをヒューズの低い声が引きとめる。凍りついたように目を瞠るハボックにヒューズはうっそりと笑った。ハボックの手に己のそれを重ねると言う。
「座れ、少尉。ロイに厄介かけてると思ってるならちゃんと食って早く治せ」
「………っ」
 ヒューズの言葉に、まるで力が抜けたようにドサリと席に戻るハボックにヒューズは薄っすらと笑った。
「いい子だ」
 そう言ってハボックの手を撫でるヒューズを、ロイは食い入るように見つめていたのだった。


2008/08/27

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