第十章


「ロイ、寝たんじゃなかったのか?」
 扉を開ければ明日は早いから休んでおけと言ったはずの男が立っていた。ロイはヒューズの言葉に苦笑すると答える。
「そのつもりだったんだがどうしても気になって眠れなくてな。顔を見たら落ち着くかと思ったんだ」
 そう言ってロイはヒューズの返事を待たずに部屋の中へと入るとベッドへと近づいていった。眠るハボックの髪をそっとかき上げるとその頬に触れる。
「熱がある」
 眉を顰めるロイにヒューズが言った。
「もともとあんまり体調がよくなかったみたいだな。そこに酒が入ったからダウンしちまったってとこか」
「気が進まないようだったのに無理をさせてしまった」
 ロイはすまなそうにハボックの頬を撫でると顔を寄せる。触れるだけのキスをするとヒューズに言った。
「やはり私が看病するよ。こんなのを見たらとても眠れ──
「ロイ」
 ヒューズはロイの言葉を遮るとその腕を引く。ベッドから──正確にはハボックから引き離すと言った。
「コイツ、お前に迷惑かけたって随分気にしてた。ここでお前が一晩中看病してたりしたらもっと気に病むだろ。だからここは俺に任せてお前は部屋に戻れ」
「ヒューズ」
「大丈夫だって、な?心配するなって」
 ニッと笑ってウィンクしてみせるヒューズにロイはため息をつく。
「仕事なんてクソくらえだッ」
「リザちゃんの前でそれ言えるんだったら明日サボってもいいぜ」
 そう言われてロイは苦虫を噛み潰したような顔をした。それでも名残惜しげにハボックを見やるロイにヒューズが言う。
「明日は俺、急ぎの仕事ねぇからさ。コイツの様子見ながら適当にすっから」
……判った」
 ロイは流石にそれ以上ごねるわけにもいかずベッドに背を向けた。その時、ベッドサイドにおいてあるワインのコルクに気付いて目を丸くする。
「どうしたんだ?このコルク、こんなにたくさん」
「ん?ああ、さっきセラーに言った時、コイツが持ってきたんだよ。縦に半分に切りゃナイフレストにでもなるんじゃないかって」
「ナイフレスト?」
 ロイはそう言うとコルクの一つを手に取った。指で弄びながら聞く。
「ハボックがそう言ってたのか?」
「ああ」
 ロイは薄っすらと笑うとコルクをもう3つほど取ってポケットに入れた。ヒューズの顔を見るとその名を呼ぶ。
「ヒューズ」
「判ってるって。心配すんな」
 そう言われてロイは苦笑すると今度こそ部屋を出て行ったのだった。


08/07/30

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