そのにじゅうご


「あー、さむッ!」
 冷たい風が通りを歩く二人の間をヒュウと吹き抜けて、ハボックが首を竦める。寒そうに尻尾を揺らしながら隣を歩くロイを見下ろしてハボックは言った。
「寒くないっスか?ロイ」
「……平気だ」
 一応そう答えるもののロイの鼻は真っ赤になってとっても寒そうだ。ハボックは繋いだロイの手を握り直して少し足を早めた。
「急いで買い物すませて帰りましょう。風邪ひいちまう」
「そうだな」
 寒気が南下して今日、アメストリスはこの冬一番の寒さだ。強い北風も相まって、体感気温はいっそう寒く感じられた。
「知ってるか?ハボック。1メートルの風が吹くと体感気温が1度下がるんだ」
「へぇ、そうなんスか?───おばちゃん、ジャガイモちょうだい。あ、そのちっこいタマネギも」
 店の女性に指さして注文しながらハボックが答える。
「今日、最高気温五度って言ってたっスよ。今は夕方でもっと低いだろうし、五メートルの風が吹いてるとしたら……げ、氷点下じゃないっスか」
 そう口にすれば余計吹く風が冷たく感じられて、ハボックは大袈裟に身を震わせた。その隣でいかにも寒そうに肩を窄ませて立っているロイを見て、野菜を袋に詰めていた店の女性が言う。
「ホント今日は寒いわねぇ。晩ご飯はなにを作るの?」
「ポトフをリクエストした」
 寒さに歯の根が合わずにガチガチと震えながらロイが答えれば、女性はロイの握り拳ほどの小さなタマネギを更に袋に放り込んだ。
「早く帰っていっぱい作って貰いなさい。タマネギ、サービスしておいたから。じっくり煮込むと甘くて体が芯から暖まるわ」
「ありがとう」
「サンキュ、おばちゃん」
 言われてロイがにっこりと笑う。支払いを済ませてハボックは店を出て歩きだした。
「おばちゃんの言うとおり、早く帰って作りましょ」
「そうだな。タマネギの皮は私が剥くぞ」
「頼んます」
 ロイの言葉にハボックが笑って頷く。ロイの手を引いて足早に通りを歩いていたハボックは、店先に揺れるものに気づいて足を止めた。
「ハボック?」
「すんません、ロイ。ちょっとこれ持ってて」
 不思議そうに見上げてくるロイにハボックは手にした袋の一つをロイに預けて店に入っていく。仕方なしに道の隅に寄ってロイはハボックが出てくるのを待った。
「……さむ」
 ヒュウヒュウと冷たい風が吹き付けて、ロイは抱えた袋を抱き締める。そうやって一人で立っていると何故だが風の冷たさも勢いも増した気がして、ロイは泣きそうに目を細めた。不意に一人きり街の片隅で震えて過ごした夜が思い浮かんでロイは唇を噛み締める。震える己の前に差し出された大きな手と優しい空色が浮かんで、ロイは噛み締めた唇を薄く開いて小さく呟いた。
「ハボック……」
「すんません、待たせちゃって」
 その途端、降ってきた声にロイはハッとして顔を上げる。そうすれば、ハボックが笑みを浮かべてロイを見下ろしていた。
「これ、買ってきたんスよ」
 ハボックはそう言いながらたった今店で買ってきたらしい袋からガサガサと何かを引っ張り出す。淡いクリーム色をしたそれを、ハボックは跪いてロイの首に巻いた。
「マフラー。あったかいっしょ?」
「ハボック」
 驚いてロイが見つめる視線の先で、ハボックはもう一つ同じ色のマフラーを取り出した。
「お揃い。いいっしょ?」
 もう一つを自分の首に巻いて、ハボックがニッと笑う。ロイはそんなハボックを目をまん丸にして見上げ、それから自分の首元を覆うマフラーを見た。
「色、嫌いっスか?」
「ううん!とってもいい色だ、ありがとう!」
 なんの反応も見せないロイにハボックが心配そうに言うのを聞いて、ロイは慌てて首を振る。それを見て、ハボックは安心したようにホッと息を吐いた。
「よかった。じゃあ、帰りましょうか」
 ハボックはそう言ってロイに預けていた袋を取り上げて、ロイの手を取る。一緒に歩き出せばまた風がヒュウと吹き付けたが、今度は全然寒くなかった。
「あったかいな、ハボック」
「そうっスね」
 お揃いのマフラーがくれる温もりに、ロイは嬉しそうに笑った。


2012/01/12


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