そのにじゅうさん


 何日かハボックにつれられて司令部に通ううち、段々と内部の作りを覚えてくる。ハボックの姿を探して廊下を歩いていたロイは、聞こえた笑い声に足を止めた。
「やあだ、もう。ジャンってば」
「んなこと言ったってさ」
 コロコロと鈴のような笑い声をたてる女性と楽しげに話すハボックの姿に、ロイはキュッと唇を噛み締めた。
 ハボックはよくモテる。本人はあまり自覚はないようだったが、人懐こく明るくて裏表のない性格は男女を問わず人気があった。
 ロイは喋る二人の姿を暫く見つめていたが、なにも言わずに今きた道を司令室に戻っていった。
「あ、ロイ君、ハボック少尉、いましたか?」
 ハボックを探しに行くと言って出ていったと思ったらすぐ戻ってきたロイにフュリーが尋ねる。だが、ロイは首を振ると窓辺の椅子に腰掛けた。ガラス越しに晴れた空に枝を伸ばす木が見える。赤く色づいた葉をつけるその姿になんだか不意に泣き出しそうになった時、ロイの黒髪を大きな手がポンポンと叩いた。
「ハボック」
 振り向けばハボックが咥え煙草で立っている。じっと見上げてくるロイを見てハボックが言った。
「ロイ、さっきいたっしょ。なんで声かけてくれなかったんです?」
 彼女、ロイを紹介して欲しいっていってたんスよ、と言うハボックを見ていられずにロイは目を逸らした。
「あの女性は彼女なのか?」
「へ?」
 そう聞かれてハボックはキョトンとする。次の瞬間プッと吹き出してハボックは言った。
「違いますよ、そんな事言ったら殺されます」
「でも、すごく親しそうだった」
 ジャン、と呼んでいた事を思い出してロイが呟くように言う。ハボックは煙草の煙をロイにかからないよう吐き出して答えた。
「エリカは士官学校時代の同期なんスよ。それに彼女、来月結婚するっスから」
「そ、そうなのか?」
 そう聞いてロイは内心ホッとする。自覚のないまま唇に笑みを浮かべるロイを見下ろしていたハボックは、ロイの体をヒョイと抱き上げた。
「わ」
 突然のことにロイは慌てて金色の頭にしがみつく。目をまん丸にして見つめてくるロイにハボックは言った。
「ね、帰りに焼き芋買って帰りましょうか。角の八百屋で作ってる焼き芋、旨いんスよ」
 ね?と笑う空色に。
「大きいの!大きい奴を買って半分こしよう!」
「いいっスね、それ」
 ロイは元気よく言って大好きな金色にギュッと抱きついたのだった。


2011/11/20


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