| 第六章 |
| 「こ、の……淫乱……ッ」 怒りと侮蔑のこもった低く囁かれる言葉がハボックの胸を抉る。乱暴に髪を引っ張られて顔を仰向かされ、ハボックは間近に迫る常盤色を見つめた。 (中佐) 「……佐」 ゆるゆると首を振りながら目の前の男を呼べば、噛みつくように口づけられる。ゴリゴリと前立腺を押し潰され、脳天を突き抜ける快感にハボックは堪らず熱を吐き出した。 (好きっス) ぐったりとヒューズの胸にもたれ掛かってハボックは思う。 (ずっとこのまま) 例え嫌われ軽蔑されていようとも、こうしてヒューズの腕の中でヒューズの体温を感じていられたならどれだけ幸せだろう。 そんな事を願ってしまう己を嘲笑いながら愛しい男の胸に顔を埋めて、ハボックは意識がゆっくりと闇に飲まれていくのに任せた。 サーサーと水が流れる音が聞こえる。柔らかい感触が汚れを落としていくのを感じていれば、不意に躯の奥を掻き回されてハボックは僅かに眉を寄せた。それでも散々に無理をさせられた躯は鉛のように重たくて身動く事が出来ない。やがて身の内を蠢く気配がなくなりフワリと躯が浮き上がる感覚がして柔らかい気配がハボックを包む。 (ちゅうさ) そっと吐息を吐き出したハボックは再び意識を手放した。 「……」 ゆっくりと意識が浮上してハボックは目を開ける。そうすれば目の前に男の胸が見えて、ハボックは視線を上へと動かした。 (中佐……?) 己を抱いて眠っているのがヒューズだと気づいてハボックは内心首を傾げる。まだ意識が夢と現の狭間にあるようで、自分が置かれた状況がすぐには理解できなかった。 (……そうか、そうだった、夕べオレ……) 下肢に残る鈍痛に気づけば不意に昨夜の事が脳裏に浮かび上がる。力ずくで引き裂かれ最奥を犯された記憶が躯と心に蘇り、ハボックはギュッと唇を噛んだ。 (もう、前みたいにはなれないのかなぁ) ヒューズと話すのが楽しかった。酒を飲み交わし笑いあうのが嬉しかった。一緒にいられる一瞬一瞬が愛しくて、傍にいるそれだけで幸せだったのに。 (どこで失敗しちゃったんだろう) ヒューズへの気持ちはひたすらに押し隠してきたつもりだった。あくまでもロイの部下として接してきた。多少、上下関係に緩いところがあったかもしれないが、最低限のラインは守っていたし、必要以上に馴れ馴れしくしたつもりもなかったのだが。 『淫乱』 何度も投げつけられた言葉が不意に浮かんでハボックは顔を歪める。自分では気づかないところでヒューズへの気持ちがバレて、何より妻子を大切にするヒューズに嫌悪と侮蔑の気持ちを引き起こさせたのかもしれないとハボックは思った。 (ただ傍にいたかっただけなんだ) こうなってしまってはもう今まで通りヒューズと接する事など出来ないだろう。そう思った途端涙が溢れて白い頬を濡らす。嗚咽を零しそうになった唇を手のひらで押さえた時、グイと後ろ髪を引かれてハボックは目を見開いてヒューズを見た。 「なに泣いてんだよ」 低く囁く声にハボックは目を見開く。答えられずに涙に濡れた瞳でじっと見つめれば、先に目を逸らしたのはヒューズだった。 (中佐) (ごめんなさい、でも) (やっぱり好き) ハボックは心の中で呟いてヒューズの胸に頬を寄せる。そうすればビクリと震えたヒューズの腕がハボックの躯を抱き締め――――。 二人はなにも語らぬままただそうして抱き締めあっていた。 2012/04/20 |
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