第五章


「ごめんなさい……」
 荒い息の合間にハボックの唇から零れた言葉にヒューズは目を瞠る。それがロイへの謝罪ととれば、もしかしてというヒューズの疑心が確信へと変わった。
(ロイが)
(ロイがハボックと)
 まだロイ自身ハボックへの気持ちに自覚はなく二人の間には何もない、そう思っていたのは間違いだった。二人は疾うに想いを通じ合わせていたのだ。そう確信した瞬間ヒューズの中に怒りの嵐が吹き荒れる。ヒューズは噛みつくように熱い吐息を零す唇を塞ぐと、その吐息すら奪い尽くそうとするようにキツく舌を絡めた。
「ん……ん……」
 そうすれば甘く鼻を鳴らしたハボックの腕が背中に回されるのを感じる。快楽に溺れるうち、自分を他の誰かと混同しているのではとヒューズは思った。
(俺はロイじゃねぇ)
(お前を抱いているのは)
(俺だ)
(誰にも、ロイにも)
(渡さない、絶対に)
(お前は俺のものだ)
「お前は」
 呻くように告げてヒューズは激しくハボックを揺さぶる。狭い肉筒をこじ開け最奥を抉りキツく締め付けてくる内壁に熱を叩きつけた。
「ヒャアアアンッ!!」
 熱い飛沫に内壁を灼かれたハボックが空色の目を見開き甘く啼く。涙に濡れた空色が快楽に煙るのを見て、ヒューズは嫉妬のあまり気が狂いそうだった。
(こんな顔をロイに)
(ロイに見せているのか)
(赦さない)
(お前のそんな顔を見ていいのは)
(俺だけだ)
 気が狂いそうなほどの独占欲。これほどの昏い欲望が己の中にあることをヒューズは初めて知った。
「アアッ、やあ、ん……ッ」
 息も絶え絶えになってハボックがヒューズにしなだれかかる。半ば意識を飛ばして虚ろに開かれた瞳を、ヒューズは掴んだ金色の髪を後ろに引っ張るようにして覗き込んだ。
「こ、の……淫乱……ッ」
(そんな顔、ロイにも他の誰にも見せたら赦さねぇ)
「……佐っ」
 低く囁けば緩く首を振ってハボックがロイを呼ぶのを聞いてヒューズは唇を歪める。
(ロイを呼ぶのか)
(お前はそんなにもロイの事が)
 親友であるはずの男に対して湧き上がる嫉妬と憎悪。ヒューズは掴んだ髪を引っ張ってハボックの顔を仰向けると、ロイの名を呼ぶ唇を己のそれで塞いだ。
「んんッ、んふゥ」
(呼ぶな、ロイを呼んだりするな)
(俺を見ろ、ハボック)
 ハボックの躯を抱き締め深く口づけながらヒューズはそう思う。そのまま唇を離さずにヒューズは埋めた楔でゴリゴリと前立腺を押し潰した。
「んんんッ、ン――――ッッ!」
 ビクビクと震えたハボックが吐き出した熱が腹を濡らすのを感じれば、ヒューズは昏い喜びを感じた。唇をゆっくりと離すと力の抜けたハボックの躯がしなだれかかってくる。
「……」
 力なくヒューズの胸に顔を寄せたままハボックが呟くように何か言ったが、ヒューズにはよく聞こえなかった。ゆっくりと金色の睫が瞬いて白い頬を涙の滴が流れる。再び何か言おうとして、だが結局唇を震わせただけでハボックの瞳が閉じ、ヒューズの胸にかかる重みが増した。
「ハボック……」
 ヒューズは暫くの間気を失ったハボックの躯を抱き締めていたが、やがてゆっくりと己を引き抜く。サアサアと湯を出したまま放り出されていたシャワーを拾い上げハボックにかけた。抱き締めるようにして背後から回した指を散々に陵辱した蕾に沈める。クチュクチュと掻き回し何度も注ぎ込んだ白濁を掻き出したが、ハボックは微かに震えただけで意識を取り戻しはしなかった。
 自分にも湯をかけて汚れを流したヒューズはハボックを抱いて立ち上がる。バスローブを羽織りハボックの躯をタオルで包み込んで部屋に戻った。綺麗に整えられたベッドにハボックをそっと下ろすと濡れて貼り付く金髪をかき上げる。攻められ続けて泣きじゃくったハボックの目元は薄赤く腫れて酷く幼く見えた。
「ハボック……」
 ヒューズは横たえた躯に圧し掛かるようにして長身を抱き締める。しっとりとした頬に己の頬を擦り寄せた。
「ハボック、俺は……ッ」
 愛しくていとしくて息ができない。誰にも渡したくなくて自分に縛り付けておきたくて、独占欲の昏い奔流にハボックを巻き込まずにはいられない。
「……いしてるッ」
 その想いの激しさ故に言葉にする事もままならない。ヒューズは低く呻くと意識のない躯をキツく抱き締めた。


2012/04/12


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