| あなたに特別 |
| 「アッアッ、嫌ァッ!」 甘いチョコの香りが漂う部屋の中にハボックの甘ったるい悲鳴が響く。嫌々と激しく首を振るハボックの脚を抱えなおしてガツガツと激しく腰を突き入れれば、ハボックの躯が弓なりに仰け反った。 「ヒアアッッ!!アッ、アアーッ!!」 「ハボック、ハボックッッ!」 グチュグチュと嫌らしい水音が響き、激しい抜き差しにあわせて突き入れた蕾の隙間から注ぎ込んだ白濁がほんの少しチョコレート色に染まって泡になって溢れる。そのイヤラシい眺めに煽られて、ヒューズは更に激しくハボックを攻め立てた。 「────佐っ、中佐ッ!」 「────へ?」 自分を呼ぶ声に机に肘を突いてぼんやりとしていたヒューズは不思議そうに顔を上げる。そうすれば、副官の大尉がうんざりしたような顔をして自分を睨んでいた。 「なんだ?」 「なんだじゃありません。だらしない顔して、仕事中になにを考えてるんですか?」 「え?──あー、まあ、なんだ、アレだ」 悪びれた様子もなくにへらと笑う上官のだらしない顔に大尉のこめかみがピクピクと震える。苛立ちを押さえ込もうと大尉は大きく息を吸い込んでゆっくりと吐き出した。 「くだらない事を考えている暇があったらこの書類の山をなんとかしてください。あと一時間したら会議ですから」 「えーっ、めんどくさいなぁ。代わりにサインして会議出といてくれよ」 「中佐」 思い切り嫌そうに言うヒューズを大尉が低い声で呼ぶ。その唇の端がヒクヒクと震えるのを見て、ヒューズも流石に拙いと書類に手を伸ばした。 「判った判った、やっておくって」 「会議もありますからね」 「大丈夫、判ってる」 過剰なまでの笑みを浮かべて答えるヒューズを大尉は疑わしてに見たが、それでもそれ以上はなにも言わずに執務室を出ていく。パタンと扉が閉まれば、ヒューズは書類を放り出してやれやれと椅子の背に体を預けた。 「どこの副官もおっかねぇなぁ」 親友のところの美人の副官を思い出しながらヒューズは呟く。ホークアイの金髪を思い出せばハボックの蜂蜜色の髪が思い出されて、ヒューズは再び顔を弛めた。 「か〜わいかったなぁ……」 バレンタインデーの夜のハボックの姿を思い浮かべてヒューズは鼻の穴を膨らませる。チョコの甘い匂いを漂わせながら身悶えるハボックを思い出して、ヒューズはムフフと笑った。 「よかったなー、アレ。チョコもああいう風に使えば美味しいよな」 ハボックが聞けばちっとも美味しくないと怒りそうな事を呟いて、ヒューズはだらしない笑みを浮かべる。あの夜のハボックのあーんな姿やこーんな姿を次々と思い浮かべていたヒューズは、ふと浮かんだ考えに目を細めた。 「ホワイトデーにはとっておきのお返しをしなきゃだよな、うん」 ヒューズはニヤリと笑うと目の前の電話に手を伸ばす。そうして空で覚えている番号を回すと相手が出るのを待った。 「ん?」 書類にガリガリとサインを書き込んでいたロイは、リンと鳴り出した電話に顔を上げる。サインを書くのと電話に出るのとどっちがマシだろうと考えて、ロイはペンを置くと受話器に手を伸ばした。 「もしもし」 嫌な相手だったらこのまま切ってしまおうと思いつつロイは相手の返事を待つ。そうすれば、受話器の向こうからよく知った声が聞こえた。 「なんだ、ヒューズか」 つまらん、と呟いたロイは賑やかな声に思わず受話器を耳から離す。切ろうかどうしようかと考えていれば、不意にヒューズが低い声で言った。 『なあ、ロイ。ひとつ頼みがあるんだが』 「頼み?珍しいな────なんだ?」 滅多に頼み事などしてこないヒューズの真剣な声に、俄に興味を掻き立てられてロイは尋ねる。シンと黙り込む電話の向こうに向かってロイが言った。 「どうした?お前らしくないな」 勿体ぶるような躊躇うようなヒューズの様子にロイは苦笑する。もう一度ロイが尋ねるより早くヒューズが口を開いた。 『ロイ、お前催淫剤入りのチョコなんて錬成できるか?』 「は?催淫剤入りのチョコだと?そんなもの何に使うんだ?」 悪趣味な、と思わず顔をしかめるロイの耳にヒューズの声が聞こえた。 『実はある組織の人間の身柄を拘束したんだ。そいつが持ってる重要な情報を聞き出そうとしてるんだが、これがなかなか強情でな。どうしても口を割らん』 「それで?催淫剤入りのチョコをどうすると言うんだ?」 『そう言う連中は拷問したところで苦痛に耐える術を知っていて効果が薄い。だが、人間、快楽には弱いって言うだろ?チョコだったら警戒せずに食うだろうし』 だからな、と言うヒューズにロイはもう一度「悪趣味だな」と返す。そうすれば聞こえたヒューズの台詞にロイはムッと唇を歪めた。 『なんだ、天下の焔の錬金術師も大したことねぇな。作れねぇって言うなら他を当たるわ』 「待て、誰も作れないなんて言っていないだろうっ!」 『別に無理しなくていいぜ?書類だってたまってて忙しいんだろうしなぁ。催淫剤入りのチョコなんてとぉっても作ってる余裕ないだろう?リザちゃんに怒られちまうもんな』 「フン!そんなものを作るのなんて朝飯前だ。中尉に文句を言われる前にチャチャッと作れるわ!」 キッと目を吊り上げてロイは受話器に向かって怒鳴る。 『────なら頼めるんだな?催淫剤入りのチョコ』 「勿論だ。メロメロのトロトロになるような強烈なのを作ってやる。投与したお前が後悔するようなすごい奴をな!」 ドンッと机を叩いて断言するロイにヒューズが嬉しそうに言った。 『流石焔の錬金術師だぜ!じゃあ今月の十四日に取りに行く。それまでに出来るか?』 「別にわざわざ取りに来なくても送ってやるぞ?」 『いやいや、そんな物騒なもの、郵送したらヤバイだろ?俺が取りに行くから!そのかわり十四日には絶対頼むぞ、いいな!十四日だぞっ』 「くどいな、判った。十四日だな、ちゃんとそれまでに作っておいてやる」 何度も期限の日にちを連呼するヒューズに眉を寄せながらもロイは言う。その後も何度も繰り返すヒューズに半ばうんざりしながらロイは電話を切った。 「まったく……煩い奴だ」 フゥと息を吐き出してロイは電話を睨む。 「しかし、いくら情報を聞き出す為とはいえ催淫剤入りのチョコだなんて悪趣味だな、ヒューズの奴。情報部ってのはそんなことまでするのか?」 もしかして東方司令部の情報部でもそんなことをやっているのだろうか。それとも中央が特別なのか。 「────まあ、なんにせよ書類にサインするよりは楽しそうだ。中央司令部からの依頼だしなッ」 いざとなればホークアイにそう言えばいい。大嫌いな書類仕事をサボる口実を見つけて、ロイはいそいそと執務室を出ていった。 「よしっ!」 チンと電話を切ってヒューズは拳を握る。 「これでブツの準備は出来た。持つべきは錬金術師の友達だなッ」 まさか自分が作ったチョコが部下に使われるなんてロイは思ってもみないだろう。きっと錬金術師の意地とプライドをかけて最高のチョコを作ってくれるに違いない。 「チョコレートっていいなっ!ああ、ホワイトデーが待ち遠しいぜッ!」 髭面をだらしなく弛めて、ヒューズは卓上のカレンダーを掴むと14と書かれた数字にチュッとキスした。 |
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