黒スグリ姫20 〜 Pastel yellow cinderella


「行くぞ、ハボック」
「……はあ」
 ポカンとして立ち尽くすハボックの手をロイは掴んで歩き出す。ロイに連れられてレストランの扉を潜れば、店員がすぐさま出てきた。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」
 名乗らずともロイの顔を見ただけで店員はにこやかに笑って二人を促す。軽く頷いて店員の後についていくロイをハボックはちらりと見上げた。
(すっげぇ、マスタング先輩、こんなレストランなのに顔パスっ?)
 奥のテーブルに案内されて、ハボックは椅子に近づく。店員にスッと椅子を引かれて、ハボックはドキドキしながら腰を下ろした。
(うっわーッ、なんかすんごい緊張するッ)
 そんなことを思いながらキョロキョロしていると少しして目の前にジュースのグラスが置かれる。ハッとして前を見ればロイが笑ってこちらを見ていた。
「ほら、乾杯しよう」
「ふぁ、ふぁいッ」
 緊張のあまり妙な声が出てしまいハボックは顔を赤らめる。それでもロイを真似てグラスを手に取りチンとあわせた。
「乾杯」
「かんぱいッ」
 言ってハボックは手にしたジュースをゴクゴクと飲み干してしまう。一気に飲んでしまってからハッと気づいて益々顔を赤らめながらハボックは聞いた。
「先輩、よくここの店に来るんスか?」
「そうだな、気に入りの店だからね。一度お前を連れてきたいと思ってたんだ」
 連れてこられてよかったと笑うロイの笑顔にハボックはドキドキする。
(先輩、こんな店によく来るんだぁ……。やっぱすごいなぁ)
 はあ、と小さくため息をついた拍子に近くのテーブルに視線をやったハボックは、女性と目があってびっくりする。慌てて視線を逸らす女性に目をぱちくりとさせたハボックは、他にも自分たちのテーブルを見ている客がいることに気づいた。
(わあ、やっぱ先輩見られてる!そうだよなぁ、カッコいいもん!)
 食事をしながらにこやかに話をするロイを見てハボックは思う。そんなロイとこうして食事をしているのをちょっぴり自慢に思っているとロイが尋ねる声がした。
「どうかしたか?ハボック」
「え?あ……えっと、みんな先輩のこと見てるなぁって思って」
 そう答えるとロイが黒曜石の目を見開く。
「レストラン来る道でもそうだったしょ?先輩カッコいいからみんな見てる」
 凄いっスね!と興奮気味に言えばロイがやれやれと言った風にため息をつくのを見て、ハボックは首を傾げた。
「先輩?」
「お前、気づいてないのか?」
「なにがっスか?」
 きょとんとして見つめればロイが肩を竦める。何故そんな風な態度をとるのか判らなくて、ムゥと唇を突き出せばロイ手を伸ばして突き出した唇をつっついた。
「先輩っ」
「ふふ、美味しそうだな。食べたくなる」
「なッ、なに言ってんの、先輩ッ」
 目を細めてそんな風に言われて、ハボックは真っ赤になって俯く。皿の上の肉をフォークでつついてチラリと見れば、黒曜石の瞳がじっと見つめていることに気づいて、ハボックは首まで真っ赤になった。
「もー、先輩ってば先輩ってば」
 ブツブツと言いながら肉をゲシゲシとつつくハボックの手にロイの手が伸びる。ハッとして顔を上げればロイが言った。
「そんなことをしたら肉が可哀想だろう?美味しく食べてやらなきゃ」
「あ……ごめんなさい」
 言われてハボックはシュンと首を竦める。そんなハボックの口元にロイは手を伸ばすとついたソースを指先で拭った。
「ソースがついてる」
「わ」
 拭った指先をぺろりと舐めるロイを見て、ハボックは赤くなる。慌ててロイから目を逸らし、皿の上の肉をパクパクと食べた。
 そんな風にドキドキしながらも楽しく会話を交わしながら食事が進んでいく。最後のデザートはケーキとアイスクリームにフルーツがたくさん盛りつけられていて、ハボックは目を輝かせてフォークを手にした。
「これ、すごい!うまそうッ」
「ふふ、絶対そう言うと思って、特別に作って貰ったんだ。ハボックスペシャルだよ」
「うわあ」
 そんな風に言われてハボックは目を瞠る。なんだかくすぐったくて、ハボックはクスクスと笑った。
「ありがとう、先輩」
 ハボックはそう言いながらあっと言う間にデザートを平らげてしまった。
「あー、旨かった!すっごい最高だったっス!」
 そう言えばロイがなにやら店員を呼んで小声で指示する。きょとんとして見ているとロイが言った。
「もう一つ、お前のために用意したものがあるんだ」
「なんスか?またケーキ?」
 ハボックスペシャル2があるのだろうかと小首を傾げていると、店員が奥から大きな紙袋を持ってきてロイに渡した。
「ハボック」
 その紙袋を受け取ったロイがハボックを呼ぶ。改まったその声に真っ直ぐ見つめれば、ロイが紙袋の中から黄色いチューリップの花束を取り出した。
「好きだよ、ハボック。これからもずっと一緒にいてくれ」
「先輩……」
 そう言いながら差し出された花束をハボックは半ば呆然としながら受け取る。大きなチューリップの花束を抱えるハボックにロイが目を細めた。
「ああ、思った通りよく似合うな。クッキーにしようかとも思ったんだが、花屋でこの花を見たらどうしてもあげたくなってしまって」
「よ、よく似合うって……」
 そんな風に言われてハボックは恥ずかしくて赤く染まった顔を花に埋める。ドキドキしながら花束を抱えていると、女子大生と覚しき二人組が近づいてきて言った。
「あのっ、よかったら写真撮らせてもらえませんか?」
「えっ?」
 唐突にそんなことを言われて、ハボックはびっくりして目を瞠る。驚きのあまりなにも答えられずにいれば、ロイが言った。
「悪いがそういうのは遠慮してくれないか?行こうか、ハボック」
「あ……はいっ、先輩」
 そう言うなり席を立つロイにハボックは慌ててついていく。支払いを済ませたロイがハボックの手を掴んだと思うと店を出てもの凄い勢いで歩きだした。
「先輩っ?あのっ、どうしたんスか?」
 さっきまでにこやかだったロイのどこか苛立ちを含んだ表情にハボックは不思議に思って尋ねる。そうすれば、暫く無言で歩いていたロイが足を止めてため息をついた。
「先輩?」
 どうしたの?とハボックはチューリップの花束を抱えて尋ねる。そんなハボックをロイはじっと見て言った。
「私はヤキモチ妬きなんだ」
 至極真面目な顔でそんな事を言うロイを目を丸くして見つめたハボックは、次の瞬間プッと吹き出した。
「ヤキモチ妬くなんて、変!」
「ハボック」
「だってオレ、先輩が大好きっスもん」
 正直な気持ちを伝えればロイが黒曜石の瞳を見開く。
「チューリップ、すげぇ嬉しい。……先輩、大好き」
 黄色いチューリップを抱き締めてそう言うハボックにロイが手を伸ばした。
「私もお前が大好きだよ、ハボック」
 そう言うロイにチューリップごと抱き締められて、ハボックは降ってくるキスをそっと受け止めた。


2015/03/13


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香深さまから「ホワイトデーはお菓子じゃなくてチューリップの大きな花束どうでしょう」とご提案頂きましたので、チューリップの花束を贈って貰いましたv
ただ、ついうっかり黄色いチューリップにしたらお借りできる素材がなくて困ったっていう(苦笑)
企画ページに思いっきり続き物を乗せるのはどうかとも思ったのですが、このシリーズが始まった切欠は去年のホワイトデーだったので乗せてみました。
私自身とっても大好きなシリーズなので、ヤキモチ妬きのマスタング先輩と可愛い姫ハボの甘いお話を楽しんで頂けたら嬉しいですv
香深さま、姫ハボにチューリップの花束をありがとうございましたv