| 黒スグリ姫20 〜 Pastel yellow cinderella |
| 学校からの帰り道、友達と通りを歩いていれば店先を飾るホワイトデーの文字をハボックは見つめる。そうすれば一緒に歩いていたルイスがハボックの視線を追うように文字を見て言った。 「なあ、ハボック。お前、誰かにホワイトデーのお礼すんの?」 「えっ?」 そんな風に聞かれてハボックは驚いてルイスを見る。 「ホワイトデーのお礼っ?」 「そう。お前、チョコ貰ってんだろ?」 そう言うルイスにハボックは慌てて首を振った。 「貰ってないよ、オレ」 「うっそ!」 ハボックの答えにルイスは目を見開く。マジ?マジ?と聞いてくるルイスにハボックは何度も頷いた。 確かにハボックにチョコをくれようとした女の子はいた。だが、ハボックは誰からもチョコを受け取らなかったし、それよりなによりロイのことが頭から離れなくて、正直バレンタインデーどころではなかったのだ。 (ホワイトデーかぁ……。一応先輩にチョコはあげたけど) いらぬ心配をした挙げ句バレンタインに渡し損ねたチョコを、ハボックは後日あげる当人のロイと一緒に手作りして渡した。遅刻ではあったがちゃんと想いを伝えた自分に、ロイはお返しをくれるだろうか。 (一枚でもいいからクッキーくれたら嬉しいな) たった一枚のクッキーでもそれをくれたのがロイならばどれだけ嬉しいことだろう。空を見上げたハボックはどうかロイがクッキーをくれますようにとそっと祈った。 テレビでサッカーの試合を見ていると携帯の着信音が鳴る。それがロイからの電話だと知らせる着信音だと気づいて、ハボックは携帯を引っ掴んで耳に当てながら二階へと階段を上がった。 「先輩っ?」 自分の部屋に入りながらハボックは言う。そうすればロイの甘い声が聞こえて、ハボックはドキドキしながらぽすんとベッドに腰を下ろした。 『ああ、今大丈夫か?』 「平気っス!」 そう聞いてくるロイにハボックは答える。ロイの言葉を待って携帯を耳に押しつければロイの声が聞こえた。 『明後日なんだが何か予定入ってるか?』 「明後日っていうと……」 と、ハボックは壁のカレンダーに目をやる。 (ホワイトデーだッ!) ロイの言う明後日がホワイトデーだと気づいてハボックは勢い込んで答えた。 「なんもないっス!すっげぇ暇ッ!」 そう答えれば、電話の向こうでロイがプッと吹き出す。クスクスと笑いながらロイは言った。 『そうか、それなら一緒に食事に行かないか?夜出かけるのはご両親がいい顔しないかな?』 「行きます!先輩と一緒だって言えば全然平気だしっ」 そう答えれば不意に電話の向こうが沈黙する。不思議に思って「先輩?」と呼びかければ一つため息が聞こえてロイが言った。 『判った、それなら明後日五時に迎えに行くよ。一緒に食事に行こう』 「はいっ」 『────ハボック、今度はちゃんと来てくれよ』 「え?」 囁くような声にハボックは目を見開く。ギュッと携帯を握り締めてハボックは言った。 「ごめんなさい、先輩っ!今度は逃げたりしないからっ、オレ……先輩のこと、す、好きだもんッ」 勢い込んで言えば一瞬電話の向こうが押し黙る。それからホッとしたようなロイの声が聞こえた。 『ありがとう、楽しみにしてるよ、ハボック。私もお前が誰より好きだ』 「先輩……」 そんな風に告げられて、ハボックは耳まで真っ赤になる。その後一言二言交わして電話が切れると、ハボックはハアとため息を零した。 「うわあ、先輩とホワイトデーデートだぁ」 ボスンとベッドに倒れ込んでハボックは呟く。クッキーを一枚もらえますようにと祈ったら、空の神様はもの凄く気前がよかったらしい。 「どうしよう、なに着ていこうかなぁ」 ホワイトデーのデートだと思えば流石にそれなりの格好をと思うものの、そんなにお洒落な服は持っていない。 「困った……どうしよ……」 ガバッと飛び起きクローゼットを開けてハボックはその夜遅くまであれでもないこれでもないと服を広げて悩んでいた。 「ねー、母さん!オレの格好、変じゃない?」 ハボックは台所に立つ母のところへ行くとそう言いながら己の服を見下ろす。もう何度目になるか判らない質問を繰り返す息子にクスクスと笑って母は言った。 「全然変じゃないわよ。可愛いわ」 「可愛いって……それはそれでなんか違う」 ハボックは唇を尖らせて呟く。その時、ピンポンと玄関のチャイムが鳴ってハボックは飛び上がった。 「来たァッ!」 ハボックは叫んで玄関に突進する。ガチャッと勢いよく扉を開けると、そこにはロイが立っていた。 「こんばんは、ハボック」 「こっ、こんばんはッ」 ロイはハボックを見てにっこりと笑う。ハボックの後から母親がエプロンで手を拭きながら出てきたのに気づいてロイは言った。 「こんばんは。今日は夜の外出を許可して頂いてありがとうございます」 そう言ってにこやかに微笑むロイに母親も笑みを浮かべた。 「こんばんは、ロイくん。いいの?この子連れて行ったら煩くて落ち着いて食事出来ないんじゃないかしら」 「えーッ、オレ、別に煩くないよ!」 「あら、この間だって、これが食べたいだのあれは嫌だだの煩くてなかなか決まらなかっじゃない」 変な事を言い出されてハボックが声を張り上げれば母親が澄まして答える。そんな二人のやりとりにクスリと笑ってロイは言った。 「ハボックはちゃんとしてますよ、心配なんてしてません」 「そうかしら?言うこときかなかったら遠慮なく叱り飛ばしてね」 「母さんッ!先輩っ、もう行きましょう!」 これ以上妙な事を言われては堪らないと、ハボックはコートを引っ掴むとロイをグイグイと押し出す。ロイが「お預かりします」と言いかけるのも構わず玄関を閉めてしまった。 「もうっ、ホント母さんってば碌な事言わないんだからっ」 プンプンと垂れた目を吊り上げて言うハボックにロイはクスリと笑う。 「いいお母さんじゃないか」 「えー、ちょっとうるさ過ぎっしょ」 中学生らしい文句を言うハボックをロイは優しく見つめて言った。 「さあ、行こうか。予約の時間に遅れたらまずい」 「あ、はいっ!」 頷いてハボックはロイと並んで歩き出す。住宅街を抜け駅前の繁華街へと入れば、ハボックは自分達に向けられる幾つもの視線に気づいた。 (なんか見られてね?) 最初は気のせいかとも思ったが、明らかにこちらを見てコソコソと囁きあっている女の子もいたりする。一体なんだろうと考えて、ハボックははたと気づいた。 (そっか、先輩の事見てるんだ) そう考えてハボックは隣を歩くロイをチラリと見遣る。ジャケットにスラックスをはき、前を開けたまま羽織ったコートを翻して歩くロイは、お世辞抜きにカッコよかった。 (そうだよな、先輩、カッコいいもの) それに比べて自分はどうだろうとハボックは己の格好を見下ろす。 (子供っぽいかも……。もっと大人っぽい服にすればよかった) 今日のハボックは春らしい淡い黄色のふんわりとしたセーターを着ている。明るい金髪と合うと母が選んでくれてハボック自身気に入っているのだが、今日ロイと一緒に歩くには子供っぽいように思えた。 (わーんっ、もっと大人っぽいのにすればよかった!) こんなパステルカラーにしなければよかったと悔やみながら歩いていると、ロイの声がした。 「ここだよ」 「えっ?────ここ?」 考えごとをしながら歩いているうちに目的地についてたらしい。言われて顔を上げたハボックは、親と一緒の時にすら入ったことのない洒落た構えのレストランを見て目を見開いた。 → next |