| Black currant Cinderella |
| 「先輩、タオルどうぞ」 「ありがとう」 なんとか大降りになる前に家にたどり着くと、ハボックはロイにタオルを差し出す。少し濡れてしまった服を拭いたロイにハボックはソファーを勧めると急いでキッチンに行った。 (わあ、どうしよう!マスタング先輩がうちに来てる!) つい勢いで誘ってしまったが、正直ドキドキして心臓が飛び出そうだ。ハボックは深呼吸するとやかんに水を入れて火にかけた。 「先輩、紅茶でいいっスか?」 「ああ、別に気にしなくていいぞ」 「でも、濡れたし、寒いっしょ?」 春先とは言えまだ濡れても平気というには寒い時期だ。熱い紅茶を飲めば暖まると、ハボックは沸騰した湯で紅茶を淹れる。少し考えてから小さな器に黒スグリのジャムを入れた。 「どうぞ、先輩」 ハボックはトレイに紅茶のカップと黒スグリ入りの器を乗せてリビングに運ぶ。ソファーに座るロイの前に紅茶とジャムを置くと向かいに腰を下ろした。 「ロシアンティーか?洒落た飲み方を知ってるな」 「母さんが好きでよくやるんス。そのジャムもオレと母さんで作ったんスよ」 ちょっぴり照れたように言うハボックに頷いて、ロイはいただきますと言ってジャムの器に手を伸ばす。スプーンで掬ってジャムを口にしたロイの黒曜石が大きく見開くのを見て、ハボックは首を傾げた。 「あの……口に合わないっスか?」 自分としては大好きな自慢のジャムだが、もしかしたらロイの口には合わなかったのかもしれない。 「すんません、今水持ってきま────」 慌てて立ち上がるハボックの手首を、ロイは手を伸ばして掴む。びっくりして振り向くハボックの、空色の瞳を見てロイは「ああ」と目を瞠った。 「そうか、あのリボン」 「えっ?」 「ハボック。お前のファーストネームはなんだ?」 いきなりそんな事を尋ねられ、ハボックはきょとんとする。理由が判らないながらもハボックは答えた。 「ジャンっスけど……。ジャン・ハボック」 「ジャン・ハボック──J.H!そうか、図らずもヒューズが言ったとおりだったというわけだ……」 もしかしたら作ったのは男かもとヒューズが言ったのを、そんな事はあり得ないと一蹴した。そんな頭の固い己を内心罵りつつロイはハボックを見つめた。 「あの黒スグリジャム入りのチョコレート。作ったのはお前だな?」 「えッ?!」 ロイの問いにハボックはギョッとする。カアアッと赤らめた顔をロイに掴まれたのとは反対の腕で隠して、ハボックは叫んだ。 「ごめんなさいッ!オ、オレ……ッ!」 きっと男の自分に手作りチョコを贈られて、気持ち悪かったに違いない。ハボックは腕で顔を隠したままその場にしゃがみ込んでしまった。 「ごめんなさい、ごめんなさい……ッ」 ハボックは小さく身を縮こまらせて何度も叫ぶ。そんなハボックをロイは優しく見つめてその側に膝をついた。 「どうして謝る?」 「だ、だって……ッ!気持ち悪いって思ったっしょ……?」 おずおずと聞いてくる空色がリボンと同じ色だと思いながらロイは笑みを浮かべる。 「きれいな空色のリボンが気になって箱を開けたらあのチョコレートが入ってて……。一粒食べてあまりの旨さに虜になった。どうしても作った相手が知りたくて、ジャムを辿れば見つかるかと思って、集めたジャムを食べ続けて……おかげで冷蔵庫が黒スグリのジャムでいっぱいだよ」 そう言うロイをハボックが目を見開いて見つめる。その空色を綺麗だと思いながら、ロイは懐からさっき買ったクッキーの包みを取り出した。 「ホワイトデー。間に合ってよかった」 そう言ってロイはハボックにクッキーを差し出す。ポカンとするハボックにロイは言った。 「ハボック、私の為にこれからもチョコレートを作ってくれないか?」 「……うそ」 「嘘なもんか。私は本気だ」 その言葉に大きく見開いた瞳に涙が盛り上がる。ロイは唇で涙を拭うと、ハボックを間近に見つめた。 「好きだよ、ハボック」 「……ッ」 囁けばクシャクシャと顔を歪めるハボックを、ロイは優しく抱き締めてそっと口づけた。 2014/03/14 prev ← |
| ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ はたかぜさまから頂きました! 「現パロで、キュートなロイハボ。モテモテのロイに叶わぬ(と思い込んでいる)恋をしているハボックがバレンタインデーにこっそりチョコレートを渡したところまでが前提。そのチョコレートを大いに気に入ったロイがハボックを探し当ててハッピーエンド。胸がきゅーっとなるようなかわいいお話希望です!」……といったネタを頂きました〜v キュートでも胸がきゅーっとなるでもない気がしなくもないですが(苦)精一杯きゅーっを目指してみましたー(笑)もう少しロイがハボックに惹かれる過程をじっくり書きたかったのですがちょっぴり時間が足りませんでした(苦)少しでもキュートなロイハボになっているといいのですが……。 はたかぜさま、とってもキュートなネタをどうもありがとうございましたvv |