| Chocolate rhapsody |
| 「好きだ、ハボック」 熱く囁くと同時に目の前に広がる黒曜石にハボックは目を見開く。柔らかい感触が己の唇に重なると同時に心臓が大きく飛び跳ねて、ハボックは反射的にロイの体を突き飛ばしていた。 「あ……あ……オ、オレ……ッ」 突然の告白にどうしていいか判らない。ハボックは尻餅をついたロイに背を向けるとその場から逃げ出してしまった。 「なにやってんの、オレ……」 逃げ出して帰ってきたアパートのリビングでがっくりとソファーに突っ伏してハボックは呟く。ドキンドキンと高鳴る心臓の音を聞きながら、ハボックは大きなため息をついた。 実はもうずっと前からハボックはロイを好きだった。だが、どう見ても可愛くもなんともない男の自分にはとても見込みがないと諦めていたのだ。それだけに突然のロイの告白は嬉しいと思うよりもビックリしてしまって、気がつけばロイを突き飛ばして逃げ出してしまっていたのだった。 「折角大佐が好きだって言ってくれたのに……」 そう呟けば押し当てられた唇の感触が蘇って、ハボックはカアアッと顔を赤らめる。ドキドキと高鳴る胸を押さえてため息を零したハボックは、指先でそっと唇に触れた。 「どうしよう……突き飛ばしちゃった」 きっとロイはハボックに拒まれたと思ったに違いない。 「そんなのヤダっ」 ハボックは浮かんだ考えにガバッと体を起こす。だが、今からロイに会いに行くのもなんだか恥ずかしくて、ハボックはどうしようと悩んで辺りを見回した。そうすれば壁にかかったカレンダーが目に入る。その中の日付の一つに目が吸い寄せられて、ハボックは目を見開いた。 「バレンタインデー……」 好きな相手に愛を伝える日。 「そうだ、大佐にチョコ贈ろう。オレも大佐のことが好きだってちゃんと言うんだ」 ハボックはそう決めるとギュッと拳を握り締めた。 「ええと、チョコを湯煎して……っと。次はなんだっけ?」 今夜はバレンタイン・イブ。ハボックはブツブツと呟きながらチョコレートのレシピを覗き込む。不慣れな手つきでレシピ首っ引きで人生初めてのトリュフチョコレートに取り組めば、どうにかこうにかロイに贈るためのチョコレートが完成した。 「で、できたぁ……」 小さなチョコが並んだ箱を手にハボックは呟く。一生懸命作ったチョコはちょっぴり形が歪ではあったがそれぞれに自分の想いが詰まっていて、とても愛しく思えた。 「よしっ、明日はこれを渡して大佐に好きですって言うぞッ!」 そうしたらロイはどんな顔をするだろう。 「たいさ……好き……」 その時のロイを想い描いてハボックはそっとチョコを抱き締める。丁寧にラッピングして最後に空色のリボンをキュッと結ぶと、よし、と頷いた。 「さあ、明日に備えて寝るぞッ」 棚の上の時計を見れば結構な時間になっている。ハボックはチョコの箱を紙袋に入れてテーブルの上に置くと、シャワーを浴びるために部屋を出ていった。 「うわあッ、寝過ごしたッッ!!」 枕元の時計が指す時間を見てハボックは叫ぶ。ベッドから飛び降りると寝室を飛び出し洗面所に飛び込んだ。ザバザバと水を跳ね飛ばして顔を洗い歯を磨くと、洗面所を出ながらパジャマ代わりのスエットを脱ぎ捨てる。急いで軍服に着替えたハボックは、チョコが入った袋をひっつかんでアパートを飛び出した。 「もうッ、朝一番で大佐に渡そうと思ったのに!」 今日のロイは朝から会議だ。だから会議が始まる前に朝一番で渡してしまうつもりだったのだが。 「渡すどころか……ち、遅刻する……ッ」 夕べはベッドに入ってからも胸がドキドキと高鳴ってなかなか寝付けなかった。漸くウトウトしだしたのが明け方近くになってからで、おかげですっかり寝坊してしまったという訳だ。朝には滅法強い筈なのにどうして今このタイミングで、と思いながらハボックは司令部に向かって駆けていく。信号以外は立ち止まる事なく突っ走って、漸く司令部に着いた頃には口もろくにきけない状態だった。 「あ……お、おはようございます」 バンッと司令室の扉を開ければ、既に自席で仕事を始めようとしていたフュリーが朝の挨拶を口にする。ゼエゼエと肩で息をするハボックを眼鏡の奥の目を丸くして見つめるフュリーに、ハボックは言った。 「た……大佐は……っ?」 「もう会議に行かれましたけど」 「っ、そ、そう……」 「だっ大丈夫ですかっ?」 やっぱり間に合わなかったかとがっくり膝をつくハボックにフュリーが心配して尋ねる。息が整わず手を振って大丈夫と伝えると、ハボックはよろよろと立ち上がり自席についた。 (失敗した……もう、なにやってんの、オレ。こんな大事な日に寝坊するなんて) ちょっぴり自己嫌悪に陥ってハボックは机に懐く。だが、チョコが入った紙袋を目にして、ハボックはガバリと身を起こした。 (がっかりしてる暇なんてない!次こそちゃんと渡すぞッ) 「大佐の会議、何時までだっけ?」 「ええと、十一時までって言ってましたよ」 「十一時だな、ありがとう」 それならばその時間にはばっちり待機できるようにしておかなければ。 ハボックは書類を手に取ると、ガリガリともの凄い勢いで片づけていった。 |
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