第三話


 いつものようにラグの上でのんびりと寝そべっていればパタパタと軽い足音がする。嫌な予感に眉を顰めれば思った通り頭上から声が降ってきた。
『ねぇ、大佐。オレもそこで寝かせてくれません?』
『嫌だ』
 ヤツのお願いに私は即答する。
『お前みたいなデカいのが来たら狭くなる』 
 顔も上げずに素っ気なく言えば「えーッ」と不満の声が聞こえた。
『そのラグ十分広いじゃないっスか。ちょっとそっち寄ってオレも入れてくださいよぅ』
『嫌だ。私は真ん中に寝たいんだ』
 ツンとそっぽを向いて私は答える。だが、ハボックは諦める事なく言った。
『オレもそこで寝たい。そのラグでもふもふあったまりたいっス』
 入れてとハボックが私の体を前脚でユサユサと揺さぶる。私は体を捻るとハボックの脚に噛みつこうとした。そうすれば慌てて脚を引っ込めるハボックに私はフンと鼻を鳴らす。恨めしげに見下ろしてくる空色を横目に見上げて言った。
『お前には自前の毛があるだろうが』
 ゴールデンレトリバーのハボックにはフサフサの長くていかにも暖かそうな毛が生えている。だが、グレイハウンドの私は短毛種だ。だからこの暖かいラグが不可欠なのだと言えばハボックが不満げに口を突き出した。
『毛が長くたってフカフカの寝床は欲しいっス。それに真ん中に寝ようが少し端に寄ろうが暖かさは変わんないっしょ?』
『あのな、私はお前が来る前からこのラグを使ってたんだ。新参者のお前にとやかく言われる筋合いはない』
 このラグは私のものだと宣言すると、私は目を閉じる。流石にもう諦めるだろうと思った私は、いきなり腹の下に押し込まれた鼻先で強引に体を押しやられた。
『おいっ』
『うお、柔らかッ』
 ハボックは私を押しやって出来た隙間に無理矢理大きな体を横たえる。嬉しそうに毛足の長いラグに鼻先をこすりつけるハボックを睨んで、私は言った。
『なに勝手に入ってきてるんだっ』
『いいじゃないっスか。仲良く寝ましょうよ』
『はあ?ふざけるなっ、とっとと出て――――』
 行けと言いかけて、私はフサフサの毛が近くにあると意外に暖かい事に気づく。気持ちよさそうに寝そべるハボックを暫く見おろしていたが、ハボックの体を脚でグイと少しだけ押しやった。
『大佐ァ?』
『狭い。もう少し向こうにいけ』
『オレの方が体が大きいのに』
『文句があるなら出ていって貰うぞ』
 そう言って睨めば、ハボックはブツブツ言いながらも一度体を起こし気持ち端に寄る。まだ多少不満はあったが近ければその分暖かく、だがその事は口には出さずにやれやれとため息をついてみせた。
『仕方ない、それで我慢してやる』
『ほんとっ?ありがとう、大佐!』
 わざとらしく言った言葉に素直に礼を返されて、私は反応に困って顔を背ける。だが、ハボックはそんな事にはまるで気づいていないように言った。
『ふふ、あったかいっスね』
 楽しげな声も聞こえぬふりで狸寝入りを決め込む。そうすればハボックは私の脚にフニッと肉球を押しつけてきた。
『あったかいなぁ』
 欠伸混じりにそう言ったと思うと、あっと言う間に眠りに落ちたハボックの寝息が聞こえてくる。私はハボックの肉球に自分のそれを押しつけると傍らの温もりを感じながら眠りに落ちていった。


2013/02/12日


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