第十七話


 パチパチと小さな音を立てる暖炉の前、定位置のラグの上に寝そべって目を閉じる。程良い熱を感じながらうつらうつらと夢と現の間をたゆたっていると、カチカチと床に爪が当たる音を立ててハボックが近づいてきた。
「大佐ぁ、外行きましょう、外」
 冬になっても相変わらずの調子でハボックは私を遊びに誘う。私は顎を前脚に乗せたまま片目だけ開けてハボックを見上げた。
「何故こんなクソ寒い時に外に行かねばならんのだ」
「だって凄くいい天気っスよ」
「だからといって寒いのは変わらんだろう」
 幾ら陽射しがあっても、この寒さに対抗し得る筈もない。折角気持ちよく暖まっているのにお断りだと冷たく言えば、ハボックは不服そうに鼻を膨らませた。
「お日さまがポカポカの中、空気が冷たいのがいいんじゃないっスか」
「そんなのがいいなんて変態だな、お前は」
「えーっ、なんスか、それ」
 変態と決めつけられてハボックがバウバウと抗議の声を上げる。それを無視して目を閉じれば、ハボックは前脚を私の体に乗せて揺すった。
「ねぇ、大佐ってばぁ」
「嫌だ、絶対にお断りだ」
 ユサユサと揺すられても私はそう言ってラグの上に寝そべり続ける。どうしても外で遊びたいらしいハボックは私の尻尾を引っ張ったり耳に噛みついたりした。
「ああ鬱陶しいッ!」
 しつこくちょっかいを出されて、流石に無視しきれず私は大声を上げて立ち上がる。期待に空色の瞳を輝かせるハボックにフンと鼻を鳴らして、私はリビングを出た。
「外行くのっ?大佐っ」
 嬉しそうにデカい図体を擦り付けてハボックがついてくる。チラリとハボックを見た私は次の瞬間猛ダッシュで階段を駆け上がった。
「あっ!大佐ッ?」
「私を捕まえられたら遊んでやる!」
 ダダダと駆け上がり二階の部屋を片っ端から開ける。不意を突かれたハボックが上がってくる寸前、ヒューズの部屋に飛び込むとベッドの下に潜り込んだ。
「大佐ァ、どこー?」
 ハボックが二階の部屋をウロウロ探す間に隙を見て今度は一階に下りる。リビングのソファーの下に潜り込み、ソファーカバーを少し引っ張って体を隠した。そのままじっとしているとハボックが二階から降りてくる。普段から自由に歩き回っているせいであちこちに残された匂いに惑わされて、ハボックは私を探しあぐねているようだった。
「どこ行っちゃったのかなぁ……」
 ハボックは呟いてウロウロと歩き回る。リビングをうろつきダイニングをうろついたハボックは、やがて廊下に出て行ってしまった。それでも私は隠れ場所から出ずにじっとしている。耳を澄ましてみたが家の中はシンと静まり返ってハボックの気配は感じられなかった。
「なにしてるんだ、アイツ……」
 私と遊びたいならさっさと見つけに来いと、隠れているのとは裏腹な考えが頭に浮かんで私は鼻に皺を寄せる。だが、ハボックは待てど暮らせど私を探しにこなかった。
「まさかヒューズが帰ってきたとか?」
 帰ってきたヒューズと遊びに出たのだろうか。
「遊びたいとか言ったくせに、ちょっと見つからなければもう諦めるなんて、なんて根性のないヤツなんだっ」
 もしかしてヒューズと遊んでいるのかもと思えば落ち着かなくなっていく。ものの五分もたたないうちに、私は我慢しきれなくなってソファーの下から出た。その時。
「大佐みっーけ!」
「な……っ?!」
 声に振り向けばいつの間にかハボックがソファーの上に立っている。ハボックはにぱぁと満面の笑みを浮かべて言った。
「大佐の事だから絶対我慢しきれなくなって出てくると思ったっスよ」
 うふふと笑うハボックに私はカーッと頭に血が上る。もう一度ソファーの下に潜ろうとすればハボックがドスンと飛び乗ってきて、私は不覚にも情けない声を上げてしまった。
「くそッ!どけッ!デブッ!重いッ!」
「運動不足で太った大佐に言われたくないっス」
 口汚く罵る私にハボックが言う。ジロリと睨んだもののまるで動じた様子のないハボックに、私は大きく息を吐き出して床に伸びた。
「いつ私がここにいると判った?」
「うーん、わりとすぐ?寒がりの大佐なら暖炉から離れないだろうと思ったし、ほっといたら探さなくてもしびれ切らして出てくるだろうなぁって」
 長く一緒に暮らすうちに行動を読まれていたらしい。悔しげに呻く私にハボックが言った。
「勝負はオレの勝ちっスよね。だったら」
 外に出て遊びましょと言うハボックに。
「……仕方ないな」
 私は答えて陽射しが降り注ぐ寒い庭へと出たのだった。


2015/02/05


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