第十八話


 お気に入りのラグの上に寝そべってぬくぬくとそのぬくもりを楽しんでいれば乱暴に玄関が開く音がする。何事かと思いつつ、隣でだらしなく眠りこけているハボックを蹴飛ばして起こした。
『おい、玄関を見てこい』
『えー、どうせヒューズさんっスよ。待ってればこっち来ますって』
 そう言ってべちゃあと私の大事なラグの上に伸びるハボックを私はゲシゲシと蹴飛ばす。渋々と起きあがったハボックがフワァと大欠伸をした時、リビングの扉が開いてヒューズが入ってきた。
『ほら、やっぱヒューズさんじゃん」
 ほらみろ、と言う顔をするハボックを睨みつければ、ハボックはそそくさと私から離れてヒューズの足下にまとわりつく。ヒューズはハボックの頭をわしわしと掻き混ぜて言った。
「ロイ、ヒューズ、お前ら悪いけど、今夜から一週間くらいペットホテルに泊まりに行ってくれ」
『なんだとッ』
 突然のことに驚いて私は寝ていたラグから飛び起きる。ペットホテルは私の大嫌いなものの一つだ。冗談じゃないとバウバウと喚く私とヒューズとを見比べて、ハボックが言った。
『ペットホテルってなんスか?お泊まり?お泊まりなの?面白そうッ』
『面白くなんかないッ!あそこは最悪のところだッ!』
 嬉しそうに顔を輝かせるハボックに私はきっぱりと言う。以前ヒューズの仕事の都合でペットホテルに預けられた事があったが、はっきり言ってギャンギャンバウバウやかましくて、正直気が狂いそうになったのだ。
「リザちゃんに泊まりに来て貰うことも考えたんだけど、何せあまりに急だからな。悪いけど、お前らホテルに……って、ロイ、怒るなよ」
 グルグルと低く唸る私にヒューズが眉を下げる。
『冗談じゃない、絶対に行かないからなッ』
『えー、大佐、そんなこと言わずに行きましょうよぅ』
 フンと鼻を鳴らしてラグに寝そべる私にハボックが言う。ねぇねぇと甘えるように鼻面を押しつけてくるハボックとラグに寝そべる私を見てヒューズが言った。
「行きたい行きたくないに関わらず預けるからな。でないとお前ら飢え死にしちまう」
『ええッ!それは絶対嫌っス!大佐、ホテル行きましょう、ホテル!』
『嫌だ、行くならお前一人でいけ。寝てれば腹も空かん、私はここで待つ』
『大佐ァ』
「俺も出張の準備してくるから。用意できたらすぐ行くぞ」
 そう言ってリビングから足早に出ていくヒューズの背に。
『私は絶対に行かんからなッ!!』
 私は大声で怒鳴った。

 そんな私の主張も空しく、今私とハボックはペットホテルのプレイルームにいる。ヒューズは私たちを預けると慌ただしく出張へと出かけてしまった。
『すげぇ面白いとこっスね!他の奴がこんなにいるなんて、ドッグランみてぇ』
 他にも私たちと同じように預けられた犬がいるのを見て、ハボックが興奮して言う。ニカッとハボックが笑顔を向けたもののデカイ図体の私たちに、小型犬達は怯えたように壁際に貼り付いていた。
『やめとけ。怖がられてるだろう』
『えーっ、なんでーっ?一緒に遊びたいのに!』
 ハボックは場の空気など全く気にもとめずに言う。他の犬が寄ってこないならそれに越したことはないと、私が居心地のよい場所を探して辺りを見回した時。
『危ないッ、よけろッ!』
『え?──いてッ!』
 ドカッと、飛んできたボールが私の後頭部を直撃する。弾みで前のめりに突っ伏してしまった私の耳に、呆れたような声が飛び込んできた。
『鈍いなぁ、よけろって言ったじゃん』
『────んだとぅッ』
 その声にムッとして背後を振り向けば小型犬が二匹、私たちを見ていた。
『貴様、他犬(ひと)にボールをぶつけておいてその言い種はなんだッ』
 無礼な物言いにズイと背を伸ばして上から見下ろして言う。そうすれば最初に口をきいた一匹より一回り大きいもう一匹が言った。
『兄さん、失礼だよ。ボールをぶつけたのはこっちなのに────すみません、怪我しませんでしたか?僕はアルフォンスって言います。こっちは兄のエドワード。兄さんが失礼な事言ってごめんなさい』
 そう言って頭を下げつつ兄の頭を前脚でグイグイと押し下げるアルフォンスと、頭を下げまいと脚を突っ張るエドワードを、私はジロリと見た。


2015/02/16


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