風の行く先   第五十一章


「みんな、おはよう!」
「隊長っ!」
「おかえりなさい、隊長!」
「わあ、隊長ッ!待ってましたよーッ!」
 詰め所の扉を開けて中に向かって声を上げれば、部下達が一斉に歓迎の声を上げる。ワアッと我先にと駆け寄ってきた部下達に揉みくしゃにされてハボックは笑い声をあげた。
「みんな、長いこと留守にして悪かった。今日からまたよろしく頼む」
 一頻り乱暴な歓迎を受けた後、ハボックは部下達を見回して言う。そうすれば久しぶりに大事な隊長を迎えて興奮に顔を輝かせた部下達が答えた。
「勿論ですよ!」
「やっとこれでハボック隊復活ですねッ!」
「も〜、隊長ッ、待ちくたびれましたよッ!」
「一緒にバリバリやりましょうッ、隊長ッ!」
 ハボックの言葉に大声で返しながら興奮のままにハボックの背やら肩やら大きな手でバンバンと叩く。
「イテェよ、お前ら。少しは加減しろ!」
「いや、ちゃんと治ったのか確かめないと」
「そうそう、途中でへばられたら困りますからね」
 笑いながらそんな風に言う部下達にハボックはニヤリと笑った。
「んなわけねぇだろ。今だってここにくる前射撃場でたっぷり撃ち込んできたんだからな」
 そう言って復活ぶりをアピールするハボックに「おお」だの「さすが隊長」だのと声が上がる。ワイワイとどこまでも落ち着く様子のない空気の中、副官の軍曹がパンパンと手を叩いた。
「もうその辺にしておけ。ちっともまともに話が出来んじゃないか」
 軍曹はそう言うと大柄な連中をかき分けハボックの前に出る。ハボックは自分よりずっと年嵩の副官に向かって笑みを浮かべた。
「色々迷惑かけて悪かった。改めてこれからも頼んだよ、軍曹」
 言って手を差し出すハボックに軍曹はため息混じりに肩を竦める。
「やんちゃ坊主どもを大人しくさせておくのは一苦労でしたよ。あたしゃ子守は苦手なんでこんなのはもう勘弁してください。それ以外でしたら幾らでもお手伝いさせて貰います」
 ニヤリと笑った軍曹に差し出した手を握り返されてハボックはホッと息を吐いた。
「さあ、隊長。指示をお願いします」
「ああ」
 軍曹に促されてハボックは頷いて部下達を見回す。
「オレがいない間にお前らがサボって鈍ってないか、まずは見せて貰うぞ」
「隊長こそ入院中に太ったんじゃないですか?」
「鈍った勘、俺たちが取り戻してあげますよ!」
「言ったな、じゃあ演習場へ行くぞ!」
「「おおッ!!」」
 久しぶりに隊長が帰ってきて盛り上がる部下達を従えて、ハボックは詰め所を飛び出していった。


 家に帰ったロイはシャワーを浴びるとグラスにウィスキーを注いで寝室に上がる。ベッドサイドのテーブルにグラスを置いて窓へと歩み寄った。
「ハボック……」
 窓から見える空を見上げて自分の心を占める相手の名を呟く。コツンとガラスに額を押しつけて深いため息をついた。
 好きで好きで堪らない。いつの間にこんなに好きになっていたのか自分でも不思議でならなかった。ハボックを抱いた時はこんな風になるなんて考えてもみなかった。ブレダやフュリーの些細な一言にすら苛立ち心をかき乱されるなんて、これまでの自分の恋愛ではなかったことだ。
「……ハボック、私は」
 ロイは言いかけた言葉を飲み込んでギュッと唇を噛み締める。綺麗な空から目を逸らしてグラスを乱暴に掴むと一気にウィスキーを飲み干した。そうして胸を焼熱くく苦しい想いを抱き締めたままベッドに入り頭からブランケットを被ってしまった。



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