菫青石の恋  第一章


 その少年と出逢ったのは偶然だった。
 その頃のロイはかの混乱の戦地、イシュヴァールから戻って間もない時分で、正直精神のバランスの危うい時期でもあった。プライドと自分がしてきたことへの罪の意識と、そこから生まれ始めた理想とがとりあえず今のロイをその場に踏みとどまらせているのだ。まるでなんでもないように振舞いながら、いまだざっくりと切り裂かれて血を流している心を抱えて、まるで縋るように夜の街で暖かい女の胸に身を寄せて一時の眠りを得るロイを誰が責められるだろうか。
 そんな時だったのだ、ロイがその少年と出逢ったのは。

「オレのこと、買ってくれない?」
 通りかかった薄暗い路地から聞こえた声に思わず足を止める。街灯もない路地に佇む金髪がぼんやりと見て取れてロイは目を細めた。
「私に言ったのか?」
 そう言えば声の主が路地から姿を現す。やっと少年の域を出たかどうかというすらりとした姿にロイは眉を顰めた。
「悪いが私は男を抱く趣味はない。他を当たってくれ」
 そう言って歩き出そうとすれば、ジャケットの裾をグイと引かれる。ムッとして睨みつけると少年はハッとして目を見開いたが、ジャケットを掴む手を離そうとはしなかった。
「聞こえなかったのか?私は男を抱く趣味はないと―――」
「お願いだからオレのこと買ってっ!なんでもアンタの言うとおりにするからっ」
 必死にそう言う少年にロイは思わず目を瞠る。
「お金だってほんのちょっとでいいから…だからオレのこと買って…!」
 そう言ってジャケットを握り締める少年の様子に、ロイの頭をジャケットが皺になるなんて事が掠める。何をバカな事を考えているんだろうと、緩く頭を振ったロイは少年の手を振りほどこうとしてふとその手を止めた。
「そんなに買って欲しいのか?」
 そう聞けば少年はコクコクと頷く。
「酷い事をするかもしれんぞ。」
 そう言われて少年は僅かに目を瞠ったがそれでももう一度頷いた。ロイは少年を暫くじっと見つめていたが不意にその細い手首を掴むと引き摺るように歩き出した。

 手近にあった宿に適当に部屋を取ると、ロイは少年を連れて行く。「脱げ」と命じれば少年はボタンに手をかけた。唇を噛み締め、ボタンを外す指が震えるその姿にロイは眉を顰める。
「初めてか?」
 そう聞けばビクリと震えて縋るようにロイを見つめた。
「一生懸命やりますからっ」
 少年は叫ぶようにそう言うと引きちぎるようにボタンを外しシャツを脱ぐ。下着ごとズボンを脱ぎ捨てるとベッドに座るロイの前に立った。若い獣のように綺麗な筋肉のついたしなやかな体を黙って見つめていると、少年は目尻を染めて俯いてしまう。それでもロイが何も言わずにいれば意を決したように言葉を口にした。
「しゃぶらせてもらってもいいっスか?」
「できるのか?」
 初めてで男のモノを咥えるのは簡単なことではないだろう、そう思って聞けば少年は「はい」と答えてロイの前に跪く。ロイのズボンを緩め、中からロイ自身を引き出すと目を閉じて舌を這わせ始めた。棹を舌先で舐めるとカリの部分を舌で何度もなぞる。先端を咥えてじゅぶじゅぶと唇で扱く少年を見つめていたロイは、金色の頭を掴むと乱暴に突き入れた。
「んぐ…っ」
 突然の事に嘔吐きそうになりながらも必死に耐える少年をロイはじっと見つめる。涙を滲ませてそれでもなんとか奉仕しようと唇を窄ませる少年の口からロイは己を引き抜いた。
「あ…っ」
 息を荒げながら少年はロイを見上げる。気分を損ねてしまったと思ったのだろう、慌ててもう一度咥えようとする少年を押し留めてロイは少年の体を引き上げた。
「それはもういいからこっちに来い」
 そう言ってベッドに座らせれば少年があからさまに身を強張らせる。その様子にロイはため息をつくと言った。
「やめるか?今やめても金は払ってやるぞ」
 だが少年は首を振ると、ベッドサイドの引出しからローションを取り出す。ベッドの上で脚を広げると、奥まったソコにローションをとろとろと零した。
「んっ…」
 冷たさに身を竦めて、だがそれでもゆっくりと己の指を沈めていく。1本だけどうにか沈めた指を動かすことも出来ずに何度も息を整えようとする少年の手首をロイはグッと掴んで引き抜いた。ギクリとしてロイを見た少年の瞳が綺麗な空色であることに初めて気づいて、ロイは少年の瞼に口付ける。伏せられたそれに何度もキスを落としてロイは少年に囁いた。
「もう、お前は何もするな。どうしても今夜体を売らなくてはいけないと言うなら私が全部やってやる」
 ロイの言葉に驚いて目を開こうとする少年の瞼にもう一度キスを落として閉じさせるとロイは少年の体をベッドに押し倒す。ローションで濡れた蕾に指を差し入れるとゆっくりとかき混ぜ始めた。
「うっ…」
 途端に強張る体を優しく撫でて、ロイは何度もキスを降らせる。徐々に指を増やして丹念に解すと、ロイは指を引き抜き己を少年の蕾に押し当てた。
「力を抜いているんだ」
 そう言って少年の脚を高く抱えると解したそこへと熱をねじこむ。みちみちと音がしそうなほど狭くて熱い肉襞の中へ、ロイはゆっくりと押し入っていった。
「ヒ…ア…ッ」
 はらはらと空色の瞳から涙を零して身を仰け反らせる少年の顔中にロイはキスを降らせる。
「力を抜け」
 あまりのきつさに眉を顰めてそう言っても、むしろロイの肩に縋る少年の指に力が入るばかりで、ロイはひとつ息を吐くと少年の前に指を絡めた。
「ア…っ」
 ゆっくりと扱き始めれば少年の体から僅かに力が抜ける。それと同時にロイが腰を動かし始めれば少年の唇からは徐々に熱い吐息が零れ始めた。
「アッ…は…んあっ…やっ、いやぁっ」
 じゅぶじゅぶといやらしい水音を立てながら抉るように突き入れれば少年の唇から悲鳴が上がる。ロイが探るように擦り上げる場所を変えていくと、ある時少年の体が大きく跳ねた。
「んあっ…ひゃんっ…あっああっ」
「ここがお前のイイところらしいな」
「やっ…アアッ…な、に…っ…ヤダァっ!」
 痛みが先に立っていた行為が突然快楽に塗りつぶされて、少年は怯えて泣きじゃくる。ロイは少年を揺さぶりながらその耳元に囁いた。
「お前にとって体を売るという行為は苦痛でしかないだろう。だったらせめてイイ思いをさせてもらえ。ここを擦られると堪らないんだろう?お前を買う相手にココがイイんだと教えて快楽を与えてもらえ。そして、お前を自分のいいようにしてると思い込むバカな男達を見下してやるといい」
 少年はそう囁くロイの顔を涙の滲む瞳で見つめて尋ねる。
「ど…して?どうしてそんな、こと…言うの…?」
「さあ…なんでだろうな…」
 そう言って何故か辛そうに顔を歪めるロイの頬に少年は手を伸ばした。そっと指を這わせると呟く。
「オレがもっとおとなだったら…アンタの涙を受け止めてあげられる、のに…」
「涙?私は泣いてなどいないぞ」
 ロイがそう言えば少年は薄っすらと笑う。その瞳から新たな涙が零れるのをロイは唇で受け止めた。それから少年の脚を抱えなおすとさらにきつく突き上げる。
「アッアアアッッ!!」
 悲鳴を上げて仰け反る体を引き戻してロイは最奥を穿つと熱を吐き出した。縋りついてくるその体を抱きしめて、ロイは少年に深く口付けたのだった。


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