グラプスヴィズの誘惑  第八章


「おい、ハボック」
「話しかけないでください。オレ今激しく落ち込んでるんス」
 床に膝をつき、ソファーの座面に突っ伏しているハボックに声をかけたロイは、顔を上げようとしない男にやれやれとため息をつく。ソファーの端に腰を下ろして、ロイはハボックの金髪に髪を絡めた。
 ロイの誘いを最初は拒んでいたハボックだったが、ロイに己の楔を咥えられ、そのあまりに淫猥な色っぽさに箍が外れてしまった。髪を引っ掴んだロイの口内に腰を突き入れ、射精したばかりかロイに飲ませてしまったのだ。
「サイテーっス、オレ……」
「そんなに落ち込むことないだろう?」
 ロイにしてみればハボックが己に興奮してくれたのだ、正直こうなってラッキーと思いこそすれハボックを責める気などこれっぽっちもない。本音を言えばこの勢いで押していけばハボックを落とす事も可能だとはっきり判ったようなもので、ロイは楽しくて仕方がなかった。
「いっそあのまま最後までしてもよかったのに」
 一度熱を吐き出して我に返ったハボックは、ロイが止めるのも聞かず風呂場から飛び出していってしまった。せっかく湯船に溜めたのだからとのんびり浸かったロイが出てきてみれば、ハボックはソファーに顔を突っ込むようにして落ち込んでいたのだった。
「勢いでやるなんて」
「別に構わないじゃないか、合意の上なんだし」
 ガバリと身を起こして言うハボックにロイが答える。ハボックはじっと見つめてくる黒曜石を見つめ返して言った。
「大佐、本当にオレの事、好きなんスか?」
「すまんが相手には不自由していないんでな、好きでもない相手と付き合う気はない」
 ロイは肩を竦めて答える。そうすればため息をつくハボックにロイは逆に問い返した。
「私のことをどう思っている?ハボック」
「尊敬してます。その年で大佐で焔の二つ名持ってて、すげぇ人だって思ってるっス」
「それだけ?」
 重ねて尋ねられてハボックは今度は少し考えてから答える。
「綺麗だと思います。初めて見たときは女の子かと思いましたもん。綺麗で、でもとても強くて、しなやかで強かで……。大佐が女の子だったらきっとオレ、一も二もなくデートの申し込みしてたと思うっス」
「男だから躊躇する?そうまで思ってるなら躊躇う必要なんてないんじゃないのか?」
「大佐」
 確かにロイの言うとおりかもしれない。ロイが女の子なら付き合う事に“試しに”なんて余計な前置きはつけなかったに違いない。
「好きだよ、ハボック」
 ロイはそう言ってハボックに手を伸ばす。ソファーの前に座り込んでいるハボックの首に手を回し、ソファーから滑り落ちるようにしてその広い胸に飛び込んだ。
「私を知って欲しいんだ……」
 ハボックの胸元にロイは頬を擦り寄せて囁く。上目遣いに見上げれば、顔を赤らめたハボックが空色の目を見開いてロイを見ていた。
「ハボック……」
 もう一押しとばかりにロイは熱い吐息と共に男の名を吐き出す。そうすればハボックがハッとしたように顔を背けて言った。
「やっ、でもオレっ、男同士のやり方なんて知らねえぇしっ」
「教えてやる」
「たい……」
「教えてやる、全部私が言うとおりにやればいい」
 だから、と身を寄せてくるロイに、ハボックは床に押し倒されていた。


「大───、んんっ」
 ハボックが何か言おうとする前にロイは彼の唇を己のそれで塞ぐ。グッと押しつけて舌をねじ込めばハボックの躯がピクリと震えた。
「ふ……ぅんっ」
 ねじ込んだ舌でハボックの口内を(まさぐ)りながらロイは楽しくて仕方なかった。風呂場では途中で逃げられてしまい、それでも脈ありと判っただけでいいと思っていたが、こうなったらもう後に引く気はない。このまま押し切り最後までいって、ハボックを完全に己のものにするつもりだった。
「ハボック」
 ロイはハボックの唇の中に熱く吹き込むようにして名を呼ぶ。その間にもハボックの逞しい胸を手のひらで撫でさすり、ハボックの躯を跨ぐように脚の間に挟んで、勃ち上がった股間をハボックに押しつけた。
「ハボック……」
 押しつけた股間が勃ち上がっているのを強調するように腰を動かしてハボックの躯になすりつける。ハボックの股間に手を伸ばしたロイは、そこが反応してすっかりと勃ち上がっていることに気づいてうっとりと笑った。


「たいさ……ッ」
 圧し掛かってくるのは己よりずっと細い躯だ。本気になれば撥ね除けるのなど容易いはずなのに、ハボックは撥ね除けるどころか押し返す事も出来なかった。それどころかそのしなやかな躯に自分が興奮しているのが判る。まるで初めてセックスをするティーンエイジャーのように興奮しきっている己に気づく事で更に興奮に拍車がかかって、ハボックはうっすらと目を開いて口づけてくるロイを見上げた。
(うわ……色っぽい)
 焦点が合わないほど近くで見ても整った顔立ちは、うっとりと蕩けてとても色っぽい。これまで付き合ったことのあるどんな可愛い女の子もロイの前では色褪せて、ハボックはこんな相手にキスされているのだと思うとドキドキと心臓が煩いほどに音を立てるのをどうする事も出来なかった。
(ッ!?わわ……大佐、勃ってるッ)
 押しつけられたロイの股間が堅くなっているのが布越しに感じられる。普段クールな装いのロイがこんな風に性的に興奮している様を見せつけられて、ハボックはゴクリと唾を飲み込んだ。
「ハボック……」
 色づいた唇が甘くハボックを呼ぶ。ハボックの興奮を確かめるように股間に手を触れてきたロイがうっとりとした笑みを浮かべのを見た時、ハボックは腕を伸ばしてその細い躯を己の腕の中に抱き締めた。


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