FLARE BLUE  第六十六章


「大佐ァ、言われたもん、エリーゼちゃんに積み込んだっスけど」
 バンッとリビングの扉を開けてハボックが言う。ソファーにドサリと腰を下ろしテーブルに広げてあったサンドイッチを摘んだ。
「なにしてるんスか?」
「ん?ああ、最後の確認をな」
 そう言うロイの手にはコンラッドが殺された現場に描かれていた陣を写した紙と、ハボックが持っていたブレスレットに入っていた小さな紙片がある。その両方を頭に入れようとじっくりと見つめるロイにハボックが言った。
「最終確認もいいっスけど、先にメシ食ったらどうっスか?」
「ああ」
 ハボックの言葉にロイは頷く。だが、口だけで実際には手にした紙から視線をあげようとしなかった。
「アンタね」
 そんなロイの様子にハボックはため息をついて腰を浮かす。手元に集中して気づいた様子のないロイの耳朶を甘く噛んだ。
「ヒャッ!」
 耳朶に食い込む歯の感触と耳に吹き込まれる吐息にロイが短い悲鳴を上げて飛び上がる。ハボックは素早くロイの手から小さな紙片を奪い取って言った。
「先にメシ食って、メシ!」
「返せッ!」
 だが、取られたものを取り返そうとロイはハボックの腕を掴む。ハボックは掴まれた腕をグルリと捻って苦もなくロイの手を外すと、逆にロイの二の腕を掴んで細い体を引き寄せた。
「サンドイッチで口塞がれんのとキスで塞がれんのとどっちがいいっスか?」
「はあッ?なにふざけた事言って────ンンッ!!」
 張り上げた声ごと唇を奪われてロイは目を見開く。逃れようと厚い胸に手を突っ張ってもがいたが、唇は一層深く合わさるばかりだった。
「ん……ッ、んふ……ぅ」
 深く唇を合わされ舌をきつく絡められる。口内を舌で弄られ歯列を舐められて、ロイはビクビクと震えながら突っ張っていた手でハボックのシャツにしがみついた。
「あふ……ハァ……ッ」
 漸く離れた唇を銀色の糸が結ぶ。熱い吐息を零しトロンとした目で見上げてくるロイの唇の端を指先で拭ってハボックが言った。
「もう一度聞くっスけど、サンドイッチで腹膨らますのと別のもんで膨らまされんのとどっちがいいっスか?」
「────サンドイッチ」
「よろしい」
 紅い顔で悔しそうに見上げてくるロイにニヤリと笑って頷いて、ハボックは抱き締めていたロイの体をソファーに下ろす。サンドイッチの皿をロイの前に引き寄せればロイが漸くサンドイッチに手を伸ばすのを見て、煙草を取り出し火をつけた。
「最終確認も大事でしょうけど、腹が減ってたらいざという時力がでねぇっスよ」
「ちゃんと覚えてなくて描くのに手こずったら困るじゃないか」
 一秒でも早く描かないと余計な邪魔が入るかもと文句を言うロイをハボックがジロリと睨む。
「頭に栄養が言ってないと思い出せるもんも思い出せないっての。ぐちゃぐちゃ煩いともう一度キスするっスよ」
 そんな風に言われたロイが慌ててサンドイッチを頬張るのを見て、ハボックはやれやれとため息と共に煙草の煙を吐き出した。
「まったく錬金術師ってもんは」
 呆れたように呟いてハボックはサンドイッチに手を伸ばす。片手に煙草、片手にサンドイッチを持ってムシャムシャと頬張るハボックをロイは眉を寄せて見上げた。
「食事の時くらい煙草をやめたらどうだ?」
「オレにとっちゃ煙草の煙も栄養なんで」
「煙草の煙なんて有害物の塊だろう」
「そうでもないかもしれないっスよ。試してみます?」
 ニヤリと笑って顔を寄せてくるハボックの顎をロイがグイグイと押し返す。
「もう沢山だッ、馬鹿ッ、ふざけるなッ!」
「おや、残念。旨いのに」
 紅い顔で睨んでくるロイにクスリと笑ってハボックはソファーに座り直した。
「まあ、しっかり食べてしっかり準備して。本番に臨みましょう」
「そんなこと言われなくても」
 判っていると頷いて、ロイは手にしたサンドイッチにガブリと噛みついた。



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