お持ち帰り
久しぶりの休日、ハボックはロイを食事と映画に誘って街を歩いていた。久々のデートに内心ウキウキしながら話かければ
ロイも上機嫌に返してくれる。今日は二人であちこち出かけて楽しもうなどとハボックが考えているとロイが不思議そうな顔
をして立ち止まった。
「あれ?雨?」
「へ?どこに?」
今日は一日晴天の予報だった筈だ。きょとんとしてハボックがロイを見ればロイは片手の手のひらを上に向けて自分の
胸元に出したまま上を見上げた。
「今、雨粒が…どわわっっ!!」
上を向いたロイめがけて頭上から水の塊が降ってくる。見事にそれを頭から被ってしまったロイは呆然と立ち尽くしていた。
「たっ、たいさっ?!」
間一髪、思わずよけてしまったハボックは慌てて上を見上げる。通り沿いのアパートメントの窓からバケツを持った美人が
手を口に当てたままビックリ顔で見下ろしていた。
「…きゃあああっっ、どうしましょうっっ!!」
事態を把握した彼女が悲鳴を上げる中、ロイはポタポタと全身から水をたらしながら頭上の窓を見上げてにっこりと笑う。
「大丈夫です、お嬢さん。どうぞ気になさらず。」
「でっ、でもっ、私ったらなんてことを…」
「ちょうど暑くてたまらないと思っていたところですから。」
ロイはそう言うと濡れた髪をかき上げてにっこりと笑う。そうしてすたすたとその場を歩き去ろうとする背をハボックは慌てて
追いかけた。角を曲がったところで追いつくとハボックはロイに言う。
「アンタも見栄っ張りっスねぇ。」
「うるさいな、ご婦人を責めるわけにもいかんだろうっ」
そう言って振り向いたロイにハボックは思わずウッと言葉に詰まった。突然の不幸に怒りと羞恥に染まった頬に絡みつく
濡れた黒髪。ぐっしょりと水を吸ったシャツは細い体の線をくっきりと浮かび上がらせ、あろうことかその薄いシャツを通して
ほの紅い胸の飾りがぷくりと透けて見えた。
「たったいさっっ」
「なんだ?」
ひっくり返った声で自分を呼ぶハボックを訝しげに見るロイにハボックはごくりと喉を鳴らす。その時、自分以外にもロイの
姿に熱い視線を注ぐ輩がいる事に気がついて、ハボックは慌てて上着を脱ぐとロイの体を包み込んだ。そうしてロイの体を
ヒョイと抱えあげると全速力で走り出す。
「ハボックっ?!」
「黙っててくださいっ!!」
荷袋よろしく担がれたロイがぎゃあぎゃあと喚くのもものともせず、ハボックは今日の予定は全てなかった事にして一目散に
家へと駆けて行ったのだった。
2007/8/23
→ 「お持ち帰りその後」(R20)
→ 「水濡れロイ」(イラスト)