| 人工知能 第九話 |
| 「まったく、まだ夏に入ったばかりだというのに。こんな中、出かけるのかと思うとうんざりする」 ロイはそう呟いて窓の外を見る。例年より短い雨の季節が終わった途端、真夏の陽射しが照りつける屋外にロイは眉間に深い皺を刻んで唸った。 「いっそ出かけるのやめちまったらどうっスか?」 そうすれば聞こえる声にロイは窓の外へ向けていた目を部屋の中に戻す。部屋の片隅で壁に寄りかかるようにして立っているハボックに、ロイは苦笑して言った。 「そういうわけにもいかん。色々と打ち合わせもあるしな」 「打ち合わせなんてテレビ会議でも何でも出来るっしょ?アンタならそんなの作るの、造作もないでしょうに」 「ハボック」 どこか不貞腐れたような口調で言うハボックに、ロイは笑みを浮かべて歩み寄る。優しく名を呼んで空色の瞳を覗き込めばハボックがキュッと唇を噛み締めた。 「こんな暑い中、出かけていかなくってもいいのに。ここは快適っしょ?」 ハボックの言葉にロイは青いガラス張りの部屋を見回す。この家の全てを取り仕切るコンピュータープログラムであるところのハボックが作り出した空間は、温度も湿度もロイの為に整えられ何処よりも快適だった。 「そうだな、だが出かけると言っても往復は車だし、大して暑さも感じんだろう」 さっき外を眺めながら言った文句とは裏腹の事を口にするロイをハボックは睨む。ロイはその子供のような表情に苦笑してホログラムの体を抱き締めるように腕を回して言った。 「心配してくれるのか?お前は優しいな、ハボック」 言ってロイはポンポンと透ける背中を叩く仕草をする。そうして腕を離すと「行ってくる」と青い部屋を出ていった。ハボックはロイが出ていった扉をしばらくの間思い詰めたような瞳でじっと見つめていたが、やがて震える吐息をそっと吐き出す。 「……いつかこの部屋から一歩も出なくて済むようにしてあげるっスから」 そう呟いたハボックの姿がシュンと空気に溶けるように消えた。 2010/07/30 |
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