人工知能 第八話


「ですからこの場合は」
 互いの主張を声高に話す出席者の男にロイはうんざりとため息をつく。平行線で決して交わることのない不毛な議論を延々と繰り広げる実るもののない会議に、ロイの我慢も限界に達していた。
「しかしだね、それはそちらの勝手な都合だろう」
(勝手な都合はお互いさまだろう)
 互いに相手の意見に聞く耳を持たないのでは議論のしようもない。ロイはバンッと机に両手をついて立ち上がると、大きな音に驚いて口を噤んだ男たちを見回して言った。
「こんな会議は時間の無駄だ。互いに相手の話を聞く気になったなら改めて会議の席を設けたまえ」
 ロイはそう言って会議室を出ると、そのまま家へと帰ってしまった。


「ハボック!」
 シュンッと音を立てて開いた扉をくぐり抜け、青く沈んだ部屋に入りながらロイが呼ぶ。返る答えがないことに苛々してロイはもう一度声を張り上げた。
「ハボック!!」
「……機嫌悪いっスね」
 そう声がして窓際にホログラムの青年の姿が現れる。窓枠に手をついて背を預けるようにしながらロイを見る青年を、ロイはジロリと睨んだ。
「何をしてた」
「……何も。アンタを見てただけ」
 そう言ってハボックは空色の瞳でロイをじっと見つめる。まるで何もかも見通しているような瞳からツイと目を逸らして腰を下ろそうとしたロイの背後にサッと椅子が現れ、その袖が開くと温かいココアの入ったカップが出てきた。僅かに黒い瞳を見開いてロイはカップを見つめていたが、やがてそれを手に取ると口を付ける。ほの甘いココアが怒りや苛立ちを沈めてくれるようで、ロイはホッと息を吐いた。
「お前はいつだって私の思う通りの事をしてくれるんだな」
 ロイはそう言って椅子に背を預けて目を閉じる。
「自分のことばかり主張してがなり合うクソじじいどもとは違う」
「オレにはアンタが考えてることが判りますもん」
「私の考えてることが?」
 ロイは目を開いて不思議そうにハボックを見た。そうすれば窓辺によりかかっていたハボックが体を起こしてロイの方へやってくる。その足下に座り込んで言った。
「今は傍に来て欲しいって思ったっしょ?」
「ハボック」
 見上げてくる空色にロイは優しく笑う。
「そうだな」
 今ではすっかり心は凪いでロイはホログラムの頭をそっと撫でた。そうすれば今度は袖からアイスクリームを載せたガラスの器が現れる。
「ははっ、やっぱりお前は最高だ、ハボック」
 ロイはそう言って笑うと器を手に取りアイスクリームを口に運んだ。


2010/04/09


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