人工知能 第三話


 青いガラス張りの部屋の中央にしつらえられた椅子に座って本を捲っていたロイは、ふとうそ寒さを感じて窓の外へと目を向ける。気がつけば青かった空ははるか彼方の稜線に僅かにオレンジ色を残すだけで殆んど暮れてしまっていた。
「もうこんな時間か」
 今日は一日本を読むのに没頭してしまった。固まってしまった体を解すようにして腕を回したとき、部屋の温度が僅かに上がったような気がしてロイは辺りを見回した。
「ハボック、お前か?」
 そう尋ねればブゥンという低い音と共に壁際に金髪の青年のホログラムが現れる。ハボックはすまなそうな顔をしてロイを見ると言った。
「すんません、もう少し早く部屋を暖かくしておけばよかったっスね」
「寒いと口に出したか?」
 感覚として寒いと思いはしたものの口に出した覚えも、ましてや部屋の温度を上げてくれと頼んだ覚えもない。無意識に言っていたかと尋ねればハボックが薄く笑った。
「いいえ、でもなんとなく」
「なんとなく…」
 繰り返したロイが頭に浮かんだイメージを口にするより早くロイが座る椅子の袖がシュッと言う音と共に開いて中から暖かいココアの入ったカップが現れる。目を見開くロイにハボックは首を傾げた。
「いらなかったっスか?」
「……いや、頼もうと思っていたところだ」
 ひんやりと冷えた部屋でずっと本を読んでいたせいで凝り固まった体を芯から解そうと、何か温かいものをと――具体的にロイの頭に浮かんだのは湯気を上げるココアのカップだったのだが――頼もうとしていたのだ。驚いたように見つめてくるロイにハボックは嬉しそうに笑った。
「正解でよかったっス」
 ハボックはそう言うと壁から離れ滑るようにやってくるとロイの足元に座る。椅子に座ったロイの脚に頭を載せるようにして目を細めると言った。
「もっともっとアンタのことが判ればいいのに」
「ハボック……」
 その言葉にロイは薄っすらと自分の脚が透けて見えるホログラムの青年の顔を見つめる。
 いつか自分の心のうちの全てを読み取られるようになってしまったらどうなるのだろう。気付いてしまわぬよう、心の奥底に沈めた感情すら読み取られてしまったら。
 ロイはその考えに慌てて首を振るとハボックの顔から無理矢理視線を外して昏く星すら見えない夜空へと目を向けた。


09/01/08


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