人工知能 第二話


「大佐。ホークアイ中尉がお見えです」
 そう告げるハボックの声に答えるように部屋の扉が開く。金髪をきっちりと結い上げた鳶色の瞳の女性が入ってくると僅かに微笑んで言った。
「おはようございます、マスタング大佐」
「ああ、呼び立てて悪かったね、中尉」
「いいえ。仕事ですから」
 ホークアイがピシリとそう答えるとロイは苦笑を浮かべる。
「ハボック、あれを」
 後ろに控えるホログラムの青年にそう声をかければロイのすぐ傍に小さなテーブル状の台が移動してきた。
「どうぞ、座りたまえよ」
 テーブルの上の書類を取りながらロイが言えば、ホークアイの背後にスッと椅子が現れる。ホークアイが腰掛けるのを見てロイは手にした書類を差し出した。
「最新のプログラムのデータだ」
「ありがとうございます」
 ホークアイは礼を言って受け取ると書類を捲って確かめる。
「同じものが添付のディスクに入っている」
 そう言うロイの声に頷きながら書類を見ているホークアイの前にハーブティのカップが差し出された。
「どうぞ」
 声に書類から視線を上げれば綺麗な空色の瞳が自分をじっと見下ろしている。その瞳に浮かぶ何かに居心地の悪さを感じながらもホークアイはそれを押し隠して笑みを浮かべた。
「ありがとう」
 ホークアイがそう礼を言ってカップを取るとハボックは軽い会釈をしてその場を離れる。そのまま窓辺まで移動して外を眺める青年のホログラムを見ながらホークアイは言った。
「本当に生きているみたいですわね」
 ホークアイの言葉にロイもまたハボックへと視線を向ける。薄っすらと微笑みながらロイは答えた。
「ああ、おかげで一人暮らしの淋しさも感じないよ」
 そう言ってハボックをじっと見つめるロイの横顔をホークアイは暫く見つめていたが、書類をとじると言った。
「司令部のフュリー曹長に渡して手配してもらいます」
「ああ、彼なら上手くやってくれるだろう」
「はい。それではこれで失礼します」
「ご苦労だったね、中尉」
 ホークアイは立ち上がって敬礼すると扉に向かって歩き出す。そうすれば窓辺にいたハボックがスッと寄ってきてホークアイを見送った。
「お気をつけて、ホークアイ中尉」
 気遣うようにかけられた言葉はだが冷たく凍り付いていて、ホークアイは自分を見つめるハボックの空色の瞳に浮かぶものが何なのか、唐突に気付くとゾクリと身を震わせる。
「ありがとう、失礼するわ」
 必死の思いでそれだけ口にすると、ホークアイは青いガラス張りの部屋から出た。シュッと音を立てて閉まる扉にホッと息を吐くと肩の力を抜く。
(ありえないわ、嫉妬だなんて)
 ハボックの瞳に浮かぶのがそんなマイナスの感情に見えたことをホークアイは首を振って否定する。それでも今出た扉を振り返って思った。
(いずれマスタング大佐はここから出てこなくなってしまうのではないのかしら)
 それがロイ自身の意思によるものなのか、それともホログラムの青年の意思によるものなのかそれは判らないが、いつか遠くない未来にそうなるのではないかと思ったホークアイは微かに苦笑する。
(なに馬鹿なことを考えてるの、それこそありえない)
 ホークアイはそんな事を考えてしまった自分を自嘲すると、扉に背を向け歩き出したのだった。


2008/09/08


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