カストルはポルークスの夢を見るか  第十一章


「ハボック……ジャクリーン……っ」
 支えた男の意識がどちらのものなのか判らず、ロイは二人の名を呼ぶ。半ば気を失ったような男の体は酷く重くて、二人はよろよろと床に座り込んだ。
「大丈夫か?しっかりしろ!」
 ロイは男の顔を覗き込むようにして言う。目を閉じて答えない男の背をそっと撫でながら、ロイはさっき二人が言った言葉を思い出していた。
『大佐はオレの事、どう思ってるんスか?まともに任務もこなせない腑抜けだと思ってる?』
『それとも血を見るのが大好きなケダモノだと思ってんの?抵抗も出来ないような子供を撃ち殺して平気な顔してるケダモノだって。こんな俺の事は存在を認めねぇの?』
『……殺しちまった…。まだあんな子供だったのに』
「子供を…?もしかしてあのテロリストの?」
 ロイはハッと目を開いて呟く。以前、テロリスト掃討作戦の時、ハボックが幼い子供を誤って撃ち殺してしまった事を思い出した。あの後暫くの間、ハボックが任務に支障を来しかねないほど塞ぎ込んでいたのには気づいていた。だが、程なくして元気を取り戻した様子に、彼の中でその事件に何らかの決着をつけたものだと思っていたのだが。もしかしてその事件が発端でハボックの中にジャクリーンと言う人格が生まれたのだというのだろうか。
「………」
 何の罪もない子供を撃ち殺してしまった罪悪感。その罪悪感故にきちんと任務に向き合えない自分への焦り。そこから生まれたジャクリーンはハボックの苦痛を全て引き受けてしまった代わりに新たな痛みを抱えることになった。根っこが同じである以上、ジャクリーンもハボックの裏側であるに過ぎない。誰にもその存在を認められないジャクリーンはそれ故に酷く不安定な存在だった。その不安定感を補う為に事更に荒々しく振る舞い、存在を他者に認めさせようとする。だが、裏側であるジャクリーンは結局ハボックとしてしか認めてもらうことができなかった。
『俺をハボックと一緒にしないでくれ』
 そう言ったジャクリーン。今思えば乱暴に体を繋げてきたジャクリーンは縋るようですらあったとは言えないだろうか。
『アンタが探しにくるのはいつもハボックなんスね』
『俺の事は探しにきてくれないんスか』
 そう言って切なく揺れたアイスブルーの瞳を思い出して、ロイは男を抱き締めた。
「ジャクリーン……」
 囁くように呼ぶ声に金色の睫が微かに震える。瞼の下から現れた瞳を見つめてロイは言った。
「私にとってはどちらも大事だ。ハボックも…ジャクリーンも」
 ロイはそう言って男の頬を撫でる。
「“お前”が好きなんだ」
 そう言うロイを男はじっと見つめた。
「奪ってしまった命の重さに怯えるお前も、その命を抱えて立ち上がろうとするお前も……私にとっては大事な“お前”だ」
 言えば男の瞳に微かな漣が起きる。男は自分の頬を撫でるロイの指先を握って言った。
「おれは……どうしたらいいんスか?………どこに向かって歩けばいいのか…判んねぇ…ッ」
 そう言って握る手にギュッと力を込める男にロイは笑う。
「どこに?決まってるだろう、私に向かって歩けばいい。私だけを見て歩いていけ」
 そう言って傲慢なまでの笑みを浮かべる黒い瞳を男は呆然として見つめた。ロイは指を握る手を振り解いて金色の頭に手を伸ばす。唇が触れ合わんばかりの距離にグイと引き寄せて囁いた。
「迷うな、お前の居場所はここだ」
 そう囁く声に男はロイの体をかき抱く。背骨が折れんばかりに抱き締めて、ロイの唇を荒々しく塞いだ。
「たいさ……っ」
 揺れる空色の瞳にロイはうっとりと笑う。
「ハボック」
 ハボックはロイの体を押し倒して乱暴にその衣服を剥ぎ取った。その性急な様子にロイがくすりと笑えばハボックが不満げにロイを睨む。だが、ハボックがロイの白い肌に舌を這わせ始めれば、ロイの唇からは笑みが消え、代わりに熱い吐息が零れ始めた。時折ハボックの唇が止まってはキュッと吸い上げる度ロイの体がびくりと震える。唇を離せば浮かび上がる紅い花びらにハボックはうっとりと笑った。そうして胸の飾りにたどり着いた唇がぴちゃりと音を立ててロイの右胸を吸う。何度も何度も執拗に舐め回し吸い上げるハボックに、ロイが抗議するようにその髪を引っ張った。
「ハボック……も、そこ、やめろ…っ」
 その声に顔を上げたハボックの首に手を回してロイはハボックに口づける。二人の唇が離れた時、ロイを見下ろしていたのはアイスブルーの瞳だった。
「ジャクリーン」
 唐突に現れたジャクリーンに、だがロイは驚きもせずにっこりと笑いかける。ジャクリーンはロイをじっと見つめていたが、ロイの白い首筋に顔を寄せると、カリと歯を立てた。
「んッ…」
 ぴくんと震えるロイに構わずジャクリーンは唇を滑らせていく。ハボックが残した花びらに対抗するように、ロイの肌に紅く痕を刻んでいった。
「んあっ……ジャクリーン…っ」
 唇と共に肌を這い回る手の乱暴な愛撫にロイは息を乱す。ジャクリーンはロイの左胸をぺろりと舐めると、思い切り噛みついた。
「ヒ…ッ」
 短い悲鳴を上げて背を仰け反らせるロイの股間に手を伸ばすと、ジャクリーンは蜜を零し始めた楔を扱く。指に蜜を絡ませると奥まった蕾にグイと指を突き入れた。
「ヒアアッ!!」
 なんの前触れもなくいきなり指を突き入れられて、ロイが悲鳴を上げる。それに構わずジャクリーンは乱暴に指をかき回すと、間をおかずに沈める指を増やしていった。
「アアッ!!ヒ……あ……ジャ…クリ…っ」
 まだ開かれるには早い蕾を強引に割り開かれ、ロイは苦痛の声を上げる。ジャクリーンは燃える瞳でロイを見下ろすと、指を引き抜き白い脚を抱え上げた。
「たいさ……」
 熱く濡れた低いジャクリーンの声がロイの心を震わせる。次の瞬間グイと押し入ってきた熱い塊にロイの唇からこらえ切れない悲鳴が迸った。
「ヒアアアアアッッ!!」
 突き入れられる度ピリとした痛みが下肢に走る。傷つきこそしなかったが、強引な挿入にロイの瞳から涙が零れた。
「ヒッ……んあっ……ジャクリーン、もっとゆっくり…っ」
 快楽よりも苦痛が先に立つ行為に流石にロイが訴える。だが、その声に構わず、ジャクリーンは容赦なくロイを攻め立てた。
「あっあっ……ジャクリーン…っ」
 激しく突き上げられ、ロイの悲鳴が甘さを帯びる。更に奥を抉られてロイは胸を仰け反らせてビクビクと震えながら熱を吐き出した。
「たいさ…」
 腹にかかる熱い飛沫にジャクリーンはうっとりと笑う。ロイの脚を大きく開くとねじ込むようにして最奥を穿ち、ぶるりと体を震わせた。
「…ッ?!アアッ!!」
 体の奥を濡らす熱にロイは目を見開き身を強張らせる。カクンと力の抜けた体を抱き締めて、ジャクリーンは嬉しそうに笑った。ずるりと抜き出される感触にロイはビクリと体を震わせる。視線を感じて見上げれば空色の瞳がロイを見ていた。
「ハボック……」
 ハボックは不満そうにロイの脚を抱え上げると白濁に濡れた下肢を覗き込む。白い双丘の狭間を伝わる熱に触れられて、ロイは慌てて身を捩った。
「やだっ、ハボック…っ」
 だが、ハボックはそんな抗議の声を無視して双丘に手をかける。割り開くように左右に広げれば、乱暴な挿入に紅く腫れ上がった蕾が現れた。
「乱暴にしやがって……」
 ハボックはぼそりとそう呟くと紅く戦慄く蕾に唇を寄せる。労るように蕾に舌を這わせるハボックにロイは熱い吐息を零して身悶えた。
「ハボック…っ、やあ…っ」
 注ぎ込まれた熱がロイが悶えるのに合わせてヒクつく蕾からとろとろと零れる。そんな様を間近に覗き込まれて羞恥に震えるロイにハボックは言った。
「オレも……挿れていい…?」
 辛いかもしんないけど、と囁くハボックにロイは目を見開く。
「馬鹿…っ、来い、ハボック」
 ロイはそう言ってハボックに手を伸ばした。そうすればくしゃりと顔を歪めたハボックがロイをギュッと抱き締める。ロイは金色の頭に手を添え引き寄せると軽く唇を合わせた。
「ハボック」
 愛しげに名を呼んで脚を開く。ハボックはその脚を抱えるとゆっくりと体を繋げていった。
「たいさ……」
「ハボック…っ」
 見下ろしてくる空色を促すようにロイは自ら腰を振る。それに答えてハボックはロイの体をきつく突き上げた。
「たいさ…たいさ…っ」
「ああっ…ハボ…ッ」
 ガツガツと突き上げてくる動きにロイはハボックの背をかき抱く。自ら強請るように腰をこすりつければハボックが更に奥を穿った。
「アアアッッ!!」
 涙を零しながらロイはびゅくびゅくと熱を吐き出す。その拍子にきゅんと含んだハボックを締め付ければ、どくんとロイの中に熱が溢れた。
「あ……」
 内壁を濡らす熱い液体にロイはピクピクと体を震わせる。震える体をギュッと抱き締めて口づけてくる唇を、ロイはうっとりと受け止めると男の体をかき抱いた。

「戻りましたっ、大佐!」
 バンッと執務室の扉を開いて長身の男が飛び込んでくる。ロイは電話の相手に向かって二言三言言って受話器を置くと、部下の顔をジロリと睨んだ。
「ノックをしろと言っているだろう……ジャクリーン」
 そう言えばアイスブルーの瞳が不満げに歪む。
「んなこと言ったって、せっかく巧いことやったのに」
 上手に出来たことを褒めてくれと強請る犬のような表情にロイはクスリと笑った。ドサリとソファーに身を投げ出すように腰を下ろしたジャクリーンに近づくとその金髪を撫でてやる。そうすれば今度は空色の
瞳がロイを不満そうに見た。
「半分はオレがやったのに!」
「ハボック」
 むぅと膨らませた頬をロイは笑って撫でる。そうすればハボックが擽ったそうに顔を顰めた。
 あの日からハボックもジャクリーンも互いの記憶をはっきり共有するようになっていた。そして時折ハボックとジャクリーンを合わせたように笑う。いつかふたつの人格がゆっくりと解け合っていくのか、それともこのまま二人の男として背中合わせに生きていくのか、今のロイには判らない。それでもロイは金色の頭を抱え込んで囁く。
「“お前”が好きだよ…」
 そうすれば蒼い瞳が嬉しそうに笑った。


2009/08/11


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水瀬さんから「二重人格で、ジャクの時はハボの時の事を覚えてるけど逆は全く自覚なし。血に酔った強引なジャクロイが何度かあって、でもハボはそれを全く覚えていないのでロイが自分以外の誰かとそういう関係だって誤解してすごく悩む話。最終的に人格が統合するかそのまま二人分のハボに愛されるようになるか(笑)はお任せします」というリクでした。
す、すみません……。なんか自分で書いてて訳わかんなくなっちゃった(殴)もの凄ーく消化不良な感じです(滝汗)多分ハボックは自分の負の部分もロイに認めて欲しかったんじゃないかと。結果二つの人格が統合するかは判らないとなってますが、少しずつ少しずつ融合してくと思います。だってどちらもハボックでどちらもジャクリーンだから。書きたい事は一杯あるのにどうにも上手く文章に仕切れなかった感がありありです。いっそ自分で書いた方がよかったよね、水瀬さん…orz 
こんなんではありますが、少しでも楽しんで頂けていたら嬉しいです……。
そうそう、ちなみにタイトルはフィリップ・K・ディックのSF小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」をもじってつけております。作品自体は読んだことないんですが、随分と昔に本屋でこの本が平積みされているのを見て、「なんて印象的なタイトルだろう」と思ったんですよ。カストルとポルークスというのはギリシャ神話に出てくる双子座になった神様の名前です。背中合わせのハボとジャク、互いに互いの夢を見るのか、ということで珍しく話を作る前にタイトルは絶対これ!と思っていたのでした(苦笑)