| 守りたい人 1 |
| 危ないと叫ぶ暇もなかった。 危険を感じたその瞬間には彼と銃を持つ相手の間に体を滑り込ませていた。体の中心に焼け付く傷みを感じたが、それには目もくれず、手にした銃を翻して銃弾を撃ち込む。 相手がもはや脅威になりえぬことを確認し、そして、自分が守るべき人の無事をたしかめようとしたハボックだったが、目の前が急速に暗く塗りつぶされ、それ以上何も出来ずにその場に崩れ落ちた。 東方司令部はここのところ大忙しだった。 テロリストの一団が大規模なテロを企てているとの情報がもたらされたからである。このテロリストの一味とは以前から小競り合いを繰り返していたが、今回市街の重要拠点や列車の線路などに爆弾を仕掛けて、市中を混乱に陥れる計画を立てているというかなり信憑性の高い情報がもたらされたのがかれこれ一週間前。 それからというもの、このテロを阻止し、これを機にテロリストどもを一網打尽にすべく、ロイたち司令部の面々は不眠不休で働いてきたのであった。 「大佐、新しい情報です」 ロイはホークアイから受け取った書類にさっと目を通すと、顔を上げて司令部の面々を見渡した。 「諸君、いよいよ大詰めだ。これから我々は敵の本拠地に踏み込み、やつらを掃討する」 最後の大捕り物を前に皆の顔に緊張が走った。 「分担は以前立てた計画通り。ブレダ少尉は小隊を連れて出発してくれたまえ。ハボック少尉の隊は私と一緒に…」 「「大佐」」 ロイの言葉に二つの高低の違う声が重なり、ロイは声のした方向を睨みつけた。 「この間も申し上げましたとおり、大佐には司令部で指示を出していただければ結構です」 ホークアイがきっぱりと言えば 「わざわざ大佐に出て来て貰わんでも我々だけで十分です」 とハボックも続ける。 「しかし…」と尚も言い募ろうとするロイに「はっきり言って邪魔ですから」とホークアイが冷たく断言した。苦虫を噛み潰したような顔をするロイに苦笑して、ハボックは 「なんも心配せんとここで待ってて下さい」 と 大きな手でロイの頭をぱふぱふと叩いた。それにロイが文句を言う前にハボックはホークアイの方を向くと 「では、ハボック少尉、小隊を連れて出発します」 と敬礼し、ロイに向かってもくだけた敬礼をよこすと足早に司令室を出て行った。ホークアイも「私も配置に着きます」とだけ言い残して司令部を出て行く。 後にはふてくされた表情のロイと連絡担当のフュリーだけが残された。 掃討戦は順調に進み、テロリストの殆どは拘束されるか抵抗を続けるものは射殺された。ロイは司令部で進行状況を受け取っていたが、ついと席を立つとコートを手に部屋を出て行こうとした。 「大佐、どちらへ?」 気づいたフュリーが声をかけるとロイは笑みを浮かべて 「現場に決まってる」 と手を振ってそのまま外へ出て行く。 「えっ?!中尉に怒られますよ!」 と叫ぶフュリーを無視して、ロイは車を回させると現場へと向かった。 「今、フュリー曹長から連絡があって大佐がこちらへ向かっているそうよ」 ホークアイがそう告げるのを聞いてハボックはため息をついた。 「全くあの人は…!」 「本当に困った人よね。仕方がないわ、小隊の指揮は副官に任せて、少尉は大佐の護衛をお願い」 「アイ・マム」 作戦は殆ど終了し、テロリストの大半は取り押さえられたがまだ完全に制圧したわけではない。危険がなくなったわけではないのに相変わらずホイホイ前面に立ちたがる上司に頭痛を覚えつつ、ハボックはロイの車が到着するのを待った。 数分後、車から降り立つロイの前に、顔に大きく不機嫌と書いたハボックが立った。 「少尉、作戦ご苦労だったな」 そうにこやかに告げるロイにハボックは低い声で 「司令部で待ってて下さいといったはずですが」と言った。 ロイはそんなハボックにも動揺もせず「最後はやはり私だろう」とフフンと笑ってみせる。ハボックははあ〜っと大きなため息をつくと「頼みますから無茶せんで下さいよ」と釘を刺した。 その時、背後の建物で大きな爆音がして爆風が吹き荒れる。もはやこれまでと悟ったテロリストたちが軍を道連れにしようと爆弾を炸裂させたのだ。前線の兵の上に瓦礫が崩れ落ちてきたが、ロイがことごとく指を鳴らしてそれを吹き飛ばした。 何度か爆音が続いた後、それまでの騒音がウソのように静まり返る。テロリストたちの拠点があった場所は瓦礫の山と化していた。負傷者の確認と生き残ったテロリスト達がいないか、手分けして確認するよう指示を出し、ロイはほっと息をついた。 「終わりましたかね」 とつぶやくハボックを見上げてロイが言葉を返そうとしたその時。 ハボックが突然自分を引き寄せその身の後ろにかばった。咄嗟に行動を起こせずにいるロイの耳に数発の銃声が響き渡り、ロイは目の前で青い軍服が崩れ落ちるのを呆然と見つめた。 「弾は心臓のすぐ横にあたりました。手術でなんとか取り出せましたが…意識不明の重体です」 ホークアイがそう告げるのを、ロイはまるで夢の中のように聞いていた。 「大佐…?」 何も言わないロイの様子にホークアイは心配そうに声をかけた。表情の伺えぬ黒い瞳が彼女に向けられる。 「病院に向かわれますか?」 そう問いかけるが、ロイは小さく首を振った。 「いや、まだやることが残っている。ハボックのことは医者にまかせよう」 そう言って司令部の扉を開けて中に入っていくロイの背中を、ホークアイは言葉もなく見つめていたが、ぎゅっと手を握り締めるとその後につき従った。 →2 |