薔薇の言葉  ハボックver. 2



 翌日、仕事帰りにヒューズ中佐の家によって買い求めたものを渡すことになった。昨日からなんだかすっかり気落ちしてしまったオレは、はっきり言ってとても大佐と一緒に行きたくはなかったけれど、護衛だし、ここで行かなかったらヒューズ中佐にも後でかなり苛められそうだし、なんて考えて、ああ、オレって苛められ体質だったのか などとますます思考をぐるぐるさせていた。
「いらっしゃい」
 グレイシアがにこやかにオレ達を出迎えてくれる。この人は本当に中佐には勿体無いくらいステキな女性だと思う。一体どうやって口説いたのか、参考までに聞かせて欲しいものだ。でも、実際に聞くことはないだろう。どうせ、惚気まくりで参考になんてなりゃしないのはわかりきってる。
 グレイシアの手料理と騒がしい中佐のおしゃべりでもてなされて、オレのささくれ立った気持ちも少しは落ち着いてきた。
「デザートをお持ちするわね」
 と席を立つグレイシアの手伝いをしようと、オレは楽しそうに中佐と話す大佐を置いて立ち上がった。どうせ、オレなんていなくても楽しい会話はつづくだろうし。
「手伝います」とキッチンについてきたオレにグレイシアは「あら」という顔をする。
「ゆっくりしていてくれていいのに」
「オレがいない方がいろいろ話せるだろうし」
 そういうオレを彼女は意外そうに見つめて、それから聞いてきた。
「どうかしたの?元気がないみたい」
 どうしてわかるのだろう。そんなに会ったことがあるわけではないのに。不思議に思うとともにこの人になら言ってもいいかと思えて。
「グレイシアさんは花言葉とか知ってます?」
「花言葉?」
「ええ、例えばバラとか」
「そうね、花言葉は好きだし、それなりに知ってると思うけど」
 視線で先を促されて、オレは口ごもりながらも続けた。
「えっと、白いバラなんスけど…しかも枯れてるっていう…」
 そう言ってなんだかバカなことを言っている気がしてオレは慌てて手を振った。
「ああ、やっぱり、いいっス。大体枯れたバラの花言葉なんてあるわけないっスよね。何聞いてるんだろ、オレ」
 しどろもどろになるオレをグレイシアはおかしそうに見ていたが、ゆっくり口を開くと言った。
「あるわよ、花言葉」
「…えっ?」
「あるの、枯れた白バラの花言葉」
 ポカンとするオレに優しく笑って、グレイシアは続けた。
「枯れた白バラの花言葉はね、『生涯を誓う』っていうの」
 え?今なんて?
「その花言葉を送ってくれた人はきっと本当に貴方を大切に思っているのね」
 だって、そんなこと、思ってるわけないから。いつだって、オレをからかってバカにして。男女を問わず引く手あまたのあの人が、間違ったってオレにそんなこと言うわけがない。
「信じてあげて。花言葉はね、素直になれない人の本当の気持ちなんだから」
 混乱するオレの気持ちを察してか、グレイシアは微笑んで言った。そして奥の部屋から小さな本を取ってくるとオレに渡した。
「はい、これ」
 渡された本は。
「答えてあげるんでしょう?私が選んであげてもいいけど、やっぱり貴方が自分で選ぶべきだから」
 見つめるオレの手を優しく叩いて、グレイシアはうなずいた。ああ、やっぱりこの人は中佐にはもったいない。
「ありがとうございます」
オレは精一杯の感謝をこめていうと、手の中の花言葉の本を握り締めた。


 気もそぞろにホテルに戻って、小さな本をめくる。
 色とりどりの花達にたくさんの想いをこめた言葉。枯れた白バラなんて、そんなものに想いを隠してオレに届けようとしたあの人を想うと涙が出そうになった。プライドが高くて傲慢で、でもとっても綺麗な人。
 多分、ずっと前から惹かれていた。気づかないふりで、そうしないと側に居られなかったから。
 オレはようやく心を決めると本を閉じて部屋を出た。


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