第九話


「あ……んっ」
 ズルリとハボックの中からジャクは楔を引き抜く。逃がすまいとするようにハボックの熟れた秘肉が絡みつき、ジャクは微かに眉を寄せた。
「や、だ……ッ、まだ全然足りな……ッ」
 身を離そうとするジャクにハボックが腕を伸ばす。だが絡んでくる腕から逃れてジャクはベッドから下りてしまった。
「なんで…ッ」
 発情して熱に潤んだ瞳で見上げてくるハボックをジャクはじっと見つめる。普段のハボックは殆んどセックスには興味を示さない。戯れに触れたりキスしたりするのはもっぱらジャクばかりだ。だが、この発情期の間だけは淫乱と言う言葉がピッタリのようにハボックはセックスをしたがった。
「ヤダ、ジャク…ッ、もっとシよ……」
 そう熱く囁いてハボックはベッドの上であられもなく脚を開いてみせる。ジャクはベッドサイドのテーブルの上から煙草を取ると一本取り出し火をつけた。
「マスタングにもそうやって強請ったのか?」
 その言葉にハボックがビクリと体を震わせる。興奮して桜色に染まっていた肌からサーッと色が引いて、ハボックは脚を閉じるとそっと目を伏せた。
「発情期になってからは一回しかしてねぇもん……」
 そう呟くように言ってハボックは自分の体を抱き締める。ジャクは弟の伏せた長い睫を見下ろして言った。
「マスタングのところに帰れ」
「な……ッ」
 ジャクの言葉にハボックが弾かれたように顔を上げる。テーブルに寄りかかるようにして煙草を吸っている兄を睨んで言った。
「帰れないよ。傍にいちゃいけないんだって言ったっしょ?」
「それはお前が勝手に思い込んでいるだけじゃないのか?」
「違う」
 きっぱりと言って見つめてくる空色をジャクは見つめ返す。抱いている最中にハボックの唇から零れた名が頭に木霊してジャクは唇を噛み締めた。
「俺に抱かれてる時に名前を呼ぶくらい好きなんだろうッ、さっさと帰れッ!」
 そう言われたハボックがポカンとしてジャクを見つめる。その表情から完璧に無意識だったことが判って、ジャクは胸がキリキリと痛んだ。互いが互いにとって唯一だった昔とは違うのだと思い知らされたようで、怒りと哀しみを宿す瞳で見つめればハボックがゆっくりと目を閉じた。
「帰れないよ、ジャク」
 あくまでそう言い張る弟にジャクはカッとなって煙草を握り潰すとハボックの頬を叩く。パンッと響く音に二人ともが驚いたように体を震わせて、互いの顔を見つめあった。
「ごめん、ジャク」
 先に気を取り直して言ったのはハボックだった。それに答えずジャクはハボックをベッドに押し倒すと緩く解けた蕾に己を突き入れる。
「アアアッ……ジャク…ッ!!」
 そう名を呼んで喘ぐ弟の言葉の裏に。
(たいさ……)
 本当に欲しい相手を切なく呼ぶ声を聞いて、ジャクは泣きそうに顔を歪めると容赦なくハボックを攻め立てた。


2009/09/14


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