第七話


「待ってください、それじゃ大佐はハボがキメラだって言うんですか…っ?」
 執務室の中、用心に扉を錬金術で封じた上でロイが告げた話に、そこにいた誰もが言葉を失っていた。それでも漸く呻くようにブレダが言えばその答えを待つように皆の視線がロイを向く。
「そう言う話をしたつもりだったが?」
 まるで世間話でもしていたかのような口調でロイが答えた。途端にブレダは「信じられねぇ」と低く呻いて頭を抱えてしまう。恐らくはロイを含めここにいる全員がそう思っていることは間違いなかった。
 散々に悩んだ末、ロイは腹心の部下達、ホークアイ、ブレダ、ファルマン、フュリーの4人にだけは真実を打ち明ける事にした。密閉した部屋の中、他言無用と切り出したロイを最初は何事かと言う顔で見ていた部下達は話が終わる頃には皆呆然とした顔になっていた。
「私が大佐に逃げ出したキメラの話をしたのは特に深い意味があったわけではありません」
「それは判っているよ、中尉。私とてあの話を聞いた時にはまさかこんな事になるとは思ってもみなかった」
 珍しく動揺の色を隠せずにホークアイが言う。宥めるように言葉を返すロイにファルマンが言った。
「しかし、もし本当にハボック少尉がキメラだったとして、どうやって軍に…」
「さぁな。今後の事を考えたらその点はきちんと調べておく必要があるんだろうが、今話したいのはそんな事じゃない」
 ロイがそう言えば誰もが押し黙ってしまう。暫く続いた沈黙の後、ブレダが恐る恐る聞いた。
「大佐、ハボをどうするつもりなんです?」
 例えこれまで人として振舞ってきたとはいえ、キメラと判ればそうは行くまい。仲間として友人として共に過ごしてきたその存在の行く末を思えば、聞くのははばかられる質問であった。だが、ロイの答えはそこにいる全員が想像していたものとは全く違うものであった。
「私はハボックを連れ戻したい。今まで通り私の部下として」
 その言葉を聞いて誰もが息を飲む。チラチラと互いの表情を伺う中でフュリーが言った。
「でもっ、バレたらどうするんですかっ?もしバレたら…」
「その時はその時だ。それにそもそもバラす気などない」
 ロイはそう言って部下達の顔を見回した。
「もう何年もハボックは自身の正体を隠して軍人としての務めを果たしてきた。そしてそれはいつでも期待以上のものだった。今ここで、ハボックを失う事があればその損失はあまりに大きい」
 詭弁だ、とロイは思う。自分が失いたくないのは部下としてのハボック少尉などではない。だが、流石に今ここでそれを口にすることは出来ず、ロイは将来事を成す上でハボックの存在が重要だと思わせる事で、自分の言い分に正当性を見い出そうとしていた。
「……俺も、できる事ならハボをなくしたくないです、大佐」
 ロイの思惑に気付いているのかいないのか、暫くしてブレダが言う。にやりと笑うその不敵な表情に、誰もが、ホークアイですらどこかホッとした表情で頷いた。
「ありがとう、少尉」
 ロイもまた二ヤリと笑んで答える。そうしてその笑顔の影で、自分の想いを振り捨てて姿を消してしまったハボックに想いを馳せた。


2009/03/17


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