第六十二話


(凄い風だな……)
 ベッドに潜り込んでロイは思う。夜も更けて流石にそろそろ休もうかと読んでいた本をサイドテーブルに置いて横になったものの、途端に外を吹き荒れる風の音が耳についてロイはため息をついてブランケットを引き上げ中に潜り込んだ。
 ヒューヒューと高い悲鳴のような音を立てて吹き荒れる風がガタガタと鎧戸を揺らす。煩いと眉をしかめて頭から被ったブランケットをギュッと引き寄せた時、小さな足音が聞こえた。
「ろーい〜」
「ハボック」
 被っていたブランケットから顔を出せば、ベッドの側に立っているハボックの姿が目に入る。自慢のフサフサの尻尾を抱き締めて、口をへの字に結んでいるハボックを見たロイの唇に笑みが浮かんだ。
「どうした、眠れないのか」
「ろいー」
 吹き荒れる風とガタガタと揺れる鎧戸の音で流石に眠れないらしい。ロイはクスリと笑ってブランケットを持ち上げた。
「おいで」
「ろいっ」
 言えばパッと顔を輝かせてハボックがベッドによじ登ってくる。潜り込んでくる小さな体をブランケットの中に引き寄せて、ロイはハボックを抱き締めた。
「ろーい」
「ふふ、あったかいな」
 ロイはハボックの金色の髪に顔を埋めて呟く。フサフサの尻尾ごと抱きついてくるハボックの背中をロイは優しく撫でた。
「大丈夫、側にいるから」
「ろーいっ」
 耳元に囁けばハボックが頷いて身をすり寄せてくる。小さな体を抱き締めていると不思議と風の音が気にならなくなって、ロイはいつの間にか眠りの淵へと落ちていった。

「ん……」
 ロイは小さく身じろいで息を吐き出す。ゆっくりと目を開ければ鎧戸の隙間から明るい陽射しが射し込んでいるのが見えた。
「……ハボック?」
 ブランケットの中にハボックの姿がない。毛糸玉になってしまったのかとブランケットを剥いで探してみたが、ベッドのどこにもハボックはいなかった。
「もう起きたのか?」
 ロイは呟いて枕元に置いた銀時計を見る。時計の針はそろそろ十一時を指していて、ロイは大きな欠伸をするともう一度ブランケットに潜り込んだ。
「夕べは遅かったし……」
 言い訳のように呟いてロイは目を閉じる。その時、どこかからロイを呼ぶ声がした。
「ハボック?今度はなんだ?」
 ロイは体を起こすとベッドから足をおろす。耳を澄ませて待てばもう一度声が聞こえた。
「ろーいー!」
「外か?」
 ハボックの声は窓の外から聞こえてきているようだ。ロイはベッドから立ち上がると鎧戸を開けた。
「ろーい〜!」
 呼ぶ声にロイは庭を見下ろす。そうすれば庭の桜の木の下、ピンク色の絨毯の上にハボックが立って手を振っていた。
「ろーい〜っ」
 ロイが窓から顔を出したのを見て、ハボックはしゃがんで地面に降り積もった桜の花びらを小さな手のひらで掬う。両手を大きく上げてパアッと花びらを振り蒔いた。
「ろーいっ」
「凄いな、ピンクの雪みたいだ」
 夕べの風で散った桜が降り積もった様はまるでピンク色の雪のようだ。ハボックは両手で花びらを掬ってはそれを宙に蒔く。ひらひらと降り注ぐ花びらの中、ハボックがくるくると回れば舞い落ちた花びらが金色の尻尾を飾った。
「ふふふ、おしゃれだな、ハボック」
「ろぉいっ」
 にっこりと笑ってハボックがくるりと回る。春の陽射しの中、楽しそうに花びらと遊ぶハボックをロイは二階の窓からのんびりと眺めていた。


2016/04/16


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