第六話


 ロイはヒューズが得意げに広げて見せる物を食い入るように見つめる。夏らしい明るい空色に白いレースがフリフリと沢山ついた可愛らしいワンピースに、ロイは思い切り眉間に皺を寄せた。
「なんだ、それは」
「えっ?なんだってワンピースだよ。知らないのか?ロイ」
 意外だなぁと眼鏡の奥を丸くするヒューズにロイが眉間の皺を深める。
「知らない訳じゃない。どうしてハボックへの土産がワンピースなんだ」
「可愛いからッ」
 低い声での問いかけに、ヒューズが満面の笑みで答えた。
「いいだろ、この色!見た瞬間ハボックちゃんの瞳の色にピッタリだと思ってさあ!レースもいっぱいついてて可愛いだろ?ハボックちゃんもそう思うよなっ?」
 そう聞かれてハボックが目を輝かせる。ソファーから降りヒューズの側に行くと柔らかいワンピースの生地に嬉しそうに触った。
「ろーい」
「お、ハボックちゃんも気に入った?」
 ニコニコと笑いかけられてヒューズが言う。
「ほら、折角だし着てみようか」
 そう言ってヒューズがいそいそとワンピースのボタンを外し始めるのを見たロイのこめかみがピクピクと震えたと思うと、物凄い形相で立ち上がった。
「やめんかッ!!ハボックも嬉しそうにするんじゃないッ!!」
 物凄い勢いで怒鳴られたハボックがビックリしてワンピースから手を離す。目を吊り上げて睨んでくるロイを見上げて、ヒューズが不思議そうに言った。
「なに怒ってんだよ、ロイ」
「何を、だと?ヒューズ、貴様いい加減ハボックを変態行為につき合わせるのをやめろ」
「変態行為?どこが?」
 言われている事が心底判らないと言うようにヒューズは首を傾げる。「ハボックちゃん、判る?」と尋ねるヒューズを見てロイが言った。
「ハボックは男だぞ、それなのにフリフリのワンピースを着せようなんて変態行為以外の何物でもないだろうがッ!大体お前の家にはエリシアという、幾らでもフリフリドレスを着せられる子供がいるだろうッ!どうしてエリシアに着せないでハボックに着せようとするんだッ!」
「えー」
 ロイに言われてヒューズが思い切り不服そうな顔をする。
「だってエリシアの服はグレイシアが買ってるんだもん、オレが買うと見境なく何でも買うからって。ハボックちゃんだって可愛いんだからさ、こういう服着せてあげたいだろ?それに」
 とヒューズは続けた。
「デートの帰りに部屋に連れ込んだ彼女にさせるような、シャツ一枚だけ着せて後は据え膳みたいな格好させてる方がよっぽど変態じゃねえ?」
「これは単に服を買いに行けなかったからだッ!ハボックが一人で留守番するのを嫌がって買いにいけないだけで――――」
「やだやだ、自分の事は棚に上げちゃって。ロイの変態〜っ」
 握った両手を口元に当てて「ヘンタイ」と連呼するのを聞いて、ロイのこめかみがブチブチと音を立てる。シュッと発火布を嵌めたと思うと、その手をヒューズに向かって突き出した。
「燃やす」
 短くそう告げた瞬間指を擦り合わせる。パチンと言う音と同時に飛んでくる焔に、ヒューズが悲鳴を上げた。
「わあッ!ハボックちゃん、助けてッ!」
「ハボックを盾にするなッ!」
「ろーいーッ」
 ワンピースを抱き締めるハボックの陰に隠れようとするヒューズにロイが怒鳴る。ギャアギャアと喚きあう大の男二人は、だがハボックが上げた悲鳴にピタリと口を閉ざした。
「ろーいッッ!!」
 悲鳴混じりに叫んだハボックが涙をいっぱいにたたえた瞳で二人を睨む。ワンピースを抱き締めたままタタタと部屋の隅に走るとカーテンの陰に隠れてしまった。
「――――」
 そんなハボックにロイとヒューズが決まり悪そうに顔を見合わせる。ロイは発火布を外してテーブルに置くと、ハボックが隠れたカーテンに歩み寄った。
「ハボック」
 ロイはそう呼びかけながらカーテンに触れる。その途端カーテンが揺れてギュッと内側に引っ張られた。
「悪かった、ハボック。私もヒューズも本気で喧嘩してた訳じゃないんだ」
 言いながらロイはカーテンごとハボックを抱き締める。
「不安にさせたなら謝る。だから出てきてくれ、ハボック」
 繰り返しすまなかったと言えば引っ張られたカーテンが弛んでハボックが顔を覗かせる。じっと見つめてくる空色を見つめ返せば、ハボックがロイに腕を伸ばした。
「ろーい」
「ハボック」
 抱きついてくるハボックを抱え上げてロイはハボックを間近から見つめる。すまんともう一度言うとギュッと首に抱きつくハボックの髪に顔を寄せて、ロイはホッと息をついた。


「ハボックちゃん、不安にさせちゃったかな」
 抱きついたまま眠ってしまったハボックを抱いてソファーに座るロイを見つめてヒューズが言う。ハボックの金髪を撫でながらロイが答えた。
「どうだろうな、ハボックにどの程度あの頃の記憶があるかも判らんし」
 二人が別れる直前の騒動をハボックが覚えていたなら、不安に思う事もあるかもしれない。ロイは一つため息をつくとヒューズを見た。
「そもそもお前がこんなものを買ってくるから悪いんだ」
「でもハボックちゃんだって気に入ってくれてるだろ」
 その言葉にハボックを見下ろせばワンピースをしっかりと抱き締めて眠っている。ロイは眉間に皺を寄せて言った。
「可愛いものや綺麗なものが好きだからな」
「だったら」
「ヒューズ」
 パッと顔を輝かせるヒューズをロイは睨む。
「例え好きでも着せる訳にいかないだろう!可愛くても男の子が着られるものを買ってこい!」
「えー」
「でないと出入り禁止だ」
 ピシリとそう言われてヒューズは口を尖らせながらも黙り込んだ。
「まぁ、またお前に怒鳴られてハボックちゃん泣かせる訳にいかないしな」
「そう言うことだ」
 少ししてため息混じりに言うヒューズにロイが答える。顔を見合わせてクスリと笑ったロイとヒューズは、スウスウと寝息を立てるハボックを優しく見つめた。


2012/08/16


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