第四十九話


「うーん」
 目覚ましの音に目を覚ましたロイはベッドの上に身を起こして思い切り伸びをする。伸ばした体を弛緩させて一つ息を吐くとベッドから下りハボックの寝床に歩み寄った。
「おはよう、ハボック。朝だぞ。今日は出かけるんだからそろそろ起きて――――っと、ハボック?」
 朝が苦手なハボックに鎧戸を開ける前にと声をかけたロイは、クッションの山の中に小さな姿がないことに気づいて目を瞠る。慌てて階下に下りれば、昨日の夜一緒に用意した服に着替えて、小さなポーチを斜めにかけたハボックが薄暗いリビングのソファーに座っていた。
「ろーいっ」
 ロイが下りてきた事に気づいたハボックがソファーから飛び降りて駆け寄ってくる。ぱふんとしがみついてくる体を受け止めて、ロイは驚いて言った。
「随分早起きだな、ハボック。一人で着替えたのか?」
「ろいっ」
 ロイの言葉にハボックがどうだと言うように腰に手を当て胸を張る。ロイはシャツの裾をハーフパンツの中に入れパンツの吊り紐を肩にかけてやった。
「上手に着られたな。それにしても何時に起きたんだ?気づかなかったよ」
 ロイは苦笑して言うと窓に歩み寄り鎧戸を開ける。差し込んできた光から逃げてテーブルの下に潜り込んだハボックを見て、ロイはクスリと笑って言った。
「急いで食事して支度するから待っていてくれ」
「ろーいー……」
 テーブルの下に這いつくばって答えるハボックをそのままにロイはキッチンに行くとコーヒーをセットする。簡単に済まそうとパンをトースターに突っ込み新聞を取りに玄関へと行った。
 ロイは焼き上がったパンとコーヒーを手にダイニングに行くと椅子に腰を下ろす。バターを塗っただけのパンをかじりながら新聞を広げて読んでいると、テーブルの下から抜け出てきたハボックが新聞を引っ張った。
「ろいッ!」
「おい、ハボック。読んでるんだから新聞を引っ張るな」
「ろぉいッ!」
 言えば頬を思い切り膨らませて睨んでくる空色に、ロイは今日の予定を思い出す。ガサガサと新聞を畳むとかじりかけのパンを頬張りコーヒーで流し込んだ。
「すまんすまん、ついクセでな。のんびり読んでる場合じゃなかった」
「ろい」
 言いながら立ち上がるロイにハボックが頷く。洗面所で身支度を整え着替えるロイを見張るようにハボックがロイの後をついて回った。
「そうだった、今日は暑くなりそうだからな」
 ロイは言いながら冷蔵庫から井戸の水を詰めたボトルを取り出す。小さな水筒に水を移し替えしっかり蓋を閉めると、ポーチを肩にかけたハボックにバッテンになるようにかけてやった。
「よし、準備オッケー」
 そう言ってロイはハボックの前に膝をつく。ハボックの髪を撫でながら言った。
「いいか、ハボック。今日はどんなに嬉しくても尻尾を出しちゃ駄目だぞ。勿論ウサギ耳もなしだ。いいな?」
「ろいッ」
 ピシッと気をつけしてハボックがロイに頷く。そんなハボックに笑みを浮かべてロイは立ち上がった。
「それじゃあ動物園に出発だ」
「ろーいっ!」
 言えば嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねるハボックと手を繋いで、二人は動物園に行くために家を出た。


2014/05/04


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