第四十四話


「よし、これでおしまい」
 ヒューズはそう言ってゴミを詰めた袋の口をギュッと縛る。傍らでフニャンと座り込むハボックを見て、ヒューズは笑みを浮かべた。

 家を空けるロイに頼まれて、留守番するハボックの面倒を見るためヒューズはロイ達が住む屋敷にやってきた。朝早く出掛けるロイを見送って、ロイがいない間にハボックとどう過ごそうかとヒューズがあれこれと算段する間に起きてきたハボックは、だがヒューズの期待に反してロイの不在に大声で泣き出してしまった。結局、ハボックと二人楽しもうと思った計画は全て諦め、ヒューズはロイの為にクッキーを焼いて家中ピカピカにしようと提案することで、どうにかこうにかハボックの機嫌をとったのだった。
「お疲れさま、ハボックちゃん。ハボックちゃんが頑張ってくれたから家中ピカピカになったね。クッキーも焼いたし、きっとロイも喜ぶよ」
「ろーいっ」
 ヒューズの言葉に疲れて座り込んでいたハボックが嬉しそうに笑う。それでもやはり疲れたようにため息をつくハボックを見て、ヒューズは言った。
「疲れたろう?埃まみれになったし、風呂に入ろうか」
「ろーい……」
 ヒューズの提案にハボックがコクンと頷く。ヒューズはハボックを抱き上げると一度ソファーに座らせ、浴室に行き湯船に湯を張るために蛇口を捻った。トボドボと湯が音を立てて湯船に溜まっていくのを確かめてから二階に上がる。引き出しを幾つか開けてハボックの服を引っ張り出すとリビングに戻った。
「お待たせ、ハボックちゃん」
「……ろい」
 ソファーでウトウトしていたハボックがヒューズの声にパッと顔を上げる。パチパチと瞬きするハボックに笑いかけてヒューズは言った。
「疲れちゃったかい?体洗ってる間にお湯も溜まるだろうから入っちゃおう」
 ヒューズはそう言ってハボックの体を抱き上げる。はふーと欠伸をするハボックに笑って浴室に向かった。
「自分で脱げる?脱がせてあげようか?」
 眠そうなハボックにヒューズが尋ねたが、ハボックはモソモソと自分で服を脱いで中に入っていく。最初のうちは眠気でフラフラしていたハボックだったが湯を浴びるうち目が覚めてきたのだろう。ヒューズとならんで埃を流してさっぱりすると、湯船にフワフワと尻尾を浮かせてのんびりと浸かるハボックに、ヒューズは笑みを浮かべて自分も湯に浸かった。
「あー、さっぱりした」
 部屋着に着替えたヒューズは冷蔵庫からビールを取り出しクーッと飲み干す。それから手早くパスタとサラダを作ると、ハボックの為には気に入りのグラスに冷たい井戸水をいれてやった。
「ハボックちゃん?」
 テーブルに食器を運んだヒューズは姿が見えないハボックを呼ぶ。それでも姿を現さないハボックに、ヒューズは眉を寄せてダイニングを出た。
「ハボックちゃん?」
 呼びながら家の中を探したヒューズは二階の寝室にいるハボックを見つける。ホッとして近づきながら、ヒューズはハボックに声をかけた。
「こんなところにいたのか、探しちゃったよ。ご飯にしないかい?ハボックちゃん」
 そう言いながら薄暗い寝室の中に佇むハボックに近づいたヒューズはハッとして足を止めた。
「ハボックちゃん……」
 滑らかな頬を濡らして声もなく泣いているハボックの姿にヒューズは息を呑む。長い睫が瞬きして新たな涙が頬を伝うのを見れば、ヒューズは胸が締め付けられるように感じて、小さい体をそっと抱き締めた。
「明日になったら帰ってくるから、心配しなくて大丈夫だよ、ハボックちゃん」
「ろーい……」
 そう言えばクスンと鼻を啜るハボックの金髪をヒューズは何度も優しく撫でた。


2013/06/13


→ 七夕編