七夕編


「ハボック、いいことをするぞ」
 何やら庭でゴソゴソやっていたロイが部屋に戻ってくるなり言う。時計の天使の踊りに合わせて調子っぱずれの鼻歌を口ずさんでいたハボックは、何事かとロイを見た。
「おいで、ハボック」
 ロイは言って手にしていた笹を部屋の片隅に置く。引き出しから色とりどりの折り紙とハサミに糊を出すと窓際のテーブルに広げた。
「ろーい?」
 側に寄ってきたハボックが不思議そうにロイを見上げる。ロイはハボックを普段自分が座っている椅子に立たせると、その側に立ってハボックを見た。
「今日は七夕と言ってな、空の上で彦星と織り姫が年に一度のデートをする日なんだ」
 突然そんな事を言われ、ハボックはキョトンとしてロイを見る。
「それで地上の我々は何をするかというと、笹に色々飾りをつけて祝ってやるというわけだ。そしてついでに願い事なんかもしてみる――――まあ、ようするにお祭りだ」
 そう言ってテーブルに広げた折り紙の中から赤いものを手に取るロイを見て、ハボックはニコッと笑みを浮かべた。ロイと同じように折り紙を手に取りどうするんだと言うようにロイを見た。
「そうだな、お前は輪飾りを作ってくれ。まず折り紙をこうして折って線をつけて細長く切る」
 ロイは言いながら折り紙を細く折ってから広げ、折り目にそって切り離す。それを見てハボックもロイに手渡された子供用の木のハサミでチョキチョキと水色の折り紙を切った。
「ろーい〜」
 真っ直ぐ切れずに細くなったり太くなったりした折り紙に、ハボックが口をへの字にしてロイを見る。
「大丈夫、上手く出来てるぞ。ほら、もっと他の色も切ってくれ」
「ろい」
 ニッコリと笑って金色の頭をポンポンと叩かれ、ハボックは真剣な顔で頷くと更に黄色と緑の折り紙を細く切った。
「よし、そうしたら次に端と端を糊で張り合わせて輪にする――――こうだ」
「……ろい?」
「そうそう、上手いぞ」
 やり方を真似て作った輪っかをロイに見せるハボックにロイは頷く。そしてハボックが切った水色の折り紙を取ると作った輪っかに通してから端を留めて輪にした。
「次の輪はこうして留める。こうやって続けて留めていくと――――こうなる」
「ろ〜いっ!」
 幾つも輪をつなげて長く作ったのをびろんと垂らして見せれば、ハボックが目を輝かせる。
「長いの、作れるか?ハボック」
「ろいっ」
 聞かれて力強く頷くハボックに輪飾りを任せてロイは別の飾りを作り始めた。そうして暫く二人して黙々と七夕飾りを作る。机の上が飾りで一杯になった頃、ロイが言った。
「よし、これくらいあればいいだろう。次は短冊に願い事を書こう」
 ロイは言って縦長に切った折り紙をハボックと自分の前に置く。
「願い事をしてごらん。きっと彦星と織り姫が叶えてくれる」
 そう言うロイをハボックは空色の瞳でじっと見つめていたが、やがてペンを手に取ると空色の短冊にうにうにとペンで書いた。
「ろーいっ」
 ハボックは書き上げた短冊をロイに示してニッコリと笑う。それからギュッとロイにしがみついた。
「うーん、私もその願い事を書こうと思ったんだがな、先に書かれてしまったか」
「ろい」
 早い者勝ちと言うように顎を突き出すハボックの鼻を、ロイがキュッと摘む。フガフガと鼻を鳴らすハボックに笑って手を離してやれば空色の瞳に睨まれて、ロイは宥めるように金色の頭を掻き混ぜてペンを取った。
「そうだな……それなら私は」
 ロイは呟いて短冊に文字を書く。それを覗き込んだハボックがロイを見上げた。
「お前の幸せが私の幸せなんだ」
 そう言うロイにハボックが腕を伸ばす。柔らかい頬を擦り付けてくる小さな体を抱き締めて、ロイは笑った。
「さあ、それじゃあ飾りをつけてしまおうか」
「ろいっ」
 ロイの言葉に頷いて、ハボックは床に飛び降りる。立てかけてあった笹を取り、肩に担いでわさわさとロイのところに運んだ。
「ほら、ハボック、つけてくれ」
 ハボックから笹を受け取ってロイが言う。真剣な表情で頷いたハボックは作った飾りを笹につけていった。
「ろーいっ」
「うん、短冊は彦星と織り姫からよく見えるように上の方につけようか」
 ロイはそう言って笹のてっぺんをハボックに向ける。ハボックは二人が書いた短冊を一番上にしっかりと結びつけた。
「ろーいっ」
「いいぞ。それじゃあ飾ろうか」
 ロイは飾りを付け終わった笹を窓辺に運びくくりつける。寄ってきたハボックを抱き上げ晴れた空を見上げた。
「今日天気がいいからよく星が見える。願い事もきっと叶うぞ」
「ろーいっ」
 そう言われてハボックが嬉しそうに笑ってロイにしがみつく。そんな二人に頷くように、笹の葉が傍らでさらさらと音を立てた。


2013/07/07


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