七夕編2


「えーっ、なんで俺の短冊飾ってくれてないのッ?」
 頼まれもしないのに「遊びに来てやったぞ」と朝から押し掛けてきたヒューズが窓辺に飾られた笹を見て言う。ぶうぶうと文句を垂れる髭面に、ロイは思い切り顔をしかめた。
「煩いヤツだな。こんな阿呆な願いを星に掛けられるか」
「あっ、こら、捨てるんじゃないっ」
 ロイがポイッとゴミ箱に投げ捨てた短冊をヒューズは慌てて拾い上げる。その短冊には“ハボックちゃんがまーすって呼んでくれますように”とか“ハボックちゃんに可愛い服を沢山着せてあげられますように”とか、ロイにしてみれば阿呆としか言いようのない願い事が書いてあった。
「大体お前にはエリシアがいるだろう?自分の娘なんだから幾らだって好きな服を着せればいいだろうが。まーすと呼んでほしけりゃエリシアに呼んで貰えばいい。なにもハボックじゃなくてもいいだろう?」
「俺はハボックちゃんに可愛い服を着せたいし、まーすって呼んで欲しいのっ!」
 ロイに言われヒューズは即座に言い返す。プゥと頬を膨らませて見せてもそれが髭面の男では可愛くもなんともなかった。
「俺はハボックちゃんとラブラブになりたい」
 ヒューズは言ってそう書いた短冊をロイに突きつける。
「そんな願い事をされても星だって迷惑だ。それにエリシアとお前は十分お前が言うところのラブラブという奴だろう?」
 ヒューズの親馬鹿ぶりはさることながら、娘のエリシアもパパの事が大好きだ。それで十分じゃないかとロイが言った時、パタパタと軽い足音がしてハボックが部屋に入ってきた。
「あっ、ハボックちゃん!まーすくんですよぉ」
 にへらっと笑うヒューズをハボックはチラリと見たもののすぐに視線を窓辺に立つロイに向ける。タタタと駆け寄ってぱふんとロイにしがみついた。
「ろーいっ」
「ハボック」
 ギュウと抱きついてくるハボックにロイが嬉しそうに目を細める。ふわふわの金髪を優しく撫でると小さな体を抱き上げた。
「どうした、ハボック?」
「ろーいっ!ろぉい〜」
 ロイの腕の中でハボックが身振り手振りを交えて一生懸命話をする。たった一つの言葉で感情豊かに話すハボックをロイは優しい瞳で見つめて、時折頷いたり言葉を挟んだりした。
「お前らほどラブラブなの、見たことないっての」
 楽しそうに話す二人は本当に幸せそうで、自分だってそこに混ぜて欲しいと思ってしまう。それでもそれは無理なのだろうとほんの少し淋しそうに窓辺で仲睦まじく話をする二人を見つめたヒューズだったが、ふるふると首を振って手にした短冊を握り締めた。
「いやいや、諦めるのはまだ早いって」
 ヒューズは言ってドカドカと二人に近づく。ロイとハボックの顔の間に頭を突っ込んでヒューズは二カッと笑った。
「ハボックちゃんっ、俺のお願い聞いてくれるとしたらどれ?」
 ヒューズは言って短冊をハボックに見せる。一瞬キョトンとしたハボックは短冊を見比べて、中から一枚取り上げた。
「ろーいっ」
「わあ、これ叶えてくれるのっ?」
 ハボックが選んだ短冊を見てヒューズが目を輝かせた。
「こら、星じゃなくハボックに願い事をかけるんじゃない!ハボック、お前も嬉しそうにするな!」
「いいじゃん、よし、じゃあ今度来るときは可愛い洋服沢山持ってくるからねっ!」
「ろーい!」
「ヒューズ!ハボック!寄越せ、その短冊!破いてくれる!」
 短冊を取り合ってドタバタと騒ぐ三人の声が、綺麗な空へと吸い込まれていった。


2013/07/16


→ 七夕編3