| 七夕編3 |
| ドンドンと乱暴に玄関の扉を叩く音が聞こえて、ロイは眉をしかめる。犬耳をピンと立てたハボックが玄関へと出て行こうとするのを押し留めて、ロイは言った。 「ここで待っていろ、ハボック」 「ろーい」 言ってリビングから出て行くロイを、ハボックは追いかけてリビングのドアから顔を出し玄関を伺う。ロイがガチャリと鍵を回した途端、表から扉が開いて陽気な声が飛び込んできた。 「ハボックちゃあん!お星さまの願い事を叶えて貰いに来たよッ!」 「ヒューズ!」 満面の笑みを浮かべる髭面を目にして、ロイは慌てて玄関を閉めようとする。だがヒューズはドンと体当たりで家の中に飛び込むと手にした紙袋を掲げた。 「可愛い服、いっぱい持ってきたよ!」 「ろーいっ!」 ヒューズの言葉にハボックが目を輝かせる。だが、ハボックがヒューズに駆け寄るより早くロイが二人の間に立ちはだかった。 「何がお星さまの願い事だッ!帰れ、馬鹿者ッ!」 キッと目を吊り上げてロイが怒鳴ったが、ヒューズは慣れたもので動じもしない。にーっこりと笑みを浮かべる髭面に一瞬ロイが怯んだ隙を見逃さず、ヒューズはハボックに向かって叫んだ。 「今だっ、ハボックちゃんッ!」 「ろいっ」 「あっ、こらッ!ハボック!」 ヒューズの合図に頷くと同時にハボックがロイの脇をすり抜ける。ロイが伸ばす手をかいくぐったハボックは、ヒューズが開けた扉から客間に飛び込んだ。 「あっ!」 ハボックに続いて部屋に飛び込んだヒューズがガチッと中から鍵を掛ける。一瞬の差で閉じられた扉に飛びついて、ロイは鍵のかかったドアノブをガチャガチャと回した。 「こらッ、出て来なさいっ、ハボック!」 ロイは中に向かって叫ぶ。 「大体いつもは知らん顔なのにどうしてこういう時だけ連携プレーなんだッ」 「ろーい〜」 ガチャガチャとドアノブを回すロイにすまなそうなハボックの声が聞こえたが、その後はロイが何を言おうとキャッキャッと楽しげな笑い声が聞こえるばかりだ。いい加減苛々を募らせたロイが扉を燃やしてやろうかと発火布を取り出した時、ガチャリと扉が開いた。 「ろーいっ」 パタパタと飛び出してきたハボックがロイにしがみつく。ハボックはロイの顔を見上げると自慢そうに腕を広げて着ているものを見せた。 「ろーいっ」 嬉しそうに笑うハボックが着ているのは紺地に赤やピンクの朝顔が咲いた浴衣だ。ハボックがクルリと回れば腰に巻いた赤いフワフワの帯が金魚の尻尾のようにふわりと靡いた。 「どーよ、可愛いだろ?」 黒曜石の瞳を見開いてハボックの浴衣姿を見つめていたロイは聞こえた声に視線を上げる。そうすればこれまた浴衣姿のヒューズに、ロイは益々目を見開いた。 「この間たまたま見つけてな、ハボックちゃんに絶対似合うと思ったんだ。この季節にピッタリだろ?」 「だからってなんでお前まで浴衣なんだッ?」 「えー、そりゃあハボックちゃんと一緒に色々楽しみたいじゃないっ?」 スイカ割りとかー、花火とかー、としなを作る髭の男にロイは思いきり顔をしかめる。 「いい加減にしろ、付き合ってられるか!ハボック、脱ぎなさい、そんなもの」 「ろい」 ヒューズを睨んだロイが言ったが、嫌と言うように短く答えてハボックはヒューズの後ろに隠れる。そんなハボックにムッと唇を歪めるロイにヒューズが言った。 「実はお前の分もあるんだよ」 「えっ?」 思いもしなかった言葉にロイが驚いて声を上げる。一瞬嬉しそうに笑みを浮かべかけてしまった顔を慌てて引き締めるロイに、ヒューズが続けた。 「一緒に遊びたいだろ〜?」 「だっ誰がッ!遊びたい訳なかろうッ!」 「あ、そう。だったら二人で遊ぼうか、ハボックちゃん」 「ろいっ」 「えっ?」 首を振ればあっさりと言ってハボックと手を繋ぐヒューズに、ロイが慌てたように手を伸ばす。自分の行動にロイがハッとしたのと、庭に出て行こうとしたヒューズが振り向いてニヤリと笑うのがほぼ同時だった。 「今からでも遅くないぜ?仲間外れは嫌だろう?」 「わ、私は別にだなッ」 「そっかー、じゃあ行こっか、ハボックちゃん」 「おいッ!あ、いや、そうじゃなくっ」 慌てて手を伸ばしてはワタワタとするロイをヒューズとハボックが肩越しに振り向いて見る。じとーッと見つめてくる二対の瞳にウッとたじろいだロイだったが、観念したように言った。 「判った、浴衣を寄越せッ!ったく、今回だけだからなッ!」 夏の楽しいイベントの魅力に負けたロイが悔しそうに舌打ちする。ニヤニヤとしながらヒューズが差し出した浴衣を引ったくるロイにハボックが笑って抱きついた。 「ろーいっ」 「よし、じゃあスイカの準備をするよ、ハボックちゃん!」 「ろーい!」 袋を抱えて中庭に出て行くヒューズを追いかけて、ハボックが金魚の尻尾を靡かせて出て行く。その背をやれやれと見送ったロイは自分も手早く浴衣に着替えて庭に出た。 そうして暑い空気を吹き飛ばすように、三人の楽しげな笑い声が夏の空に吸い込まれていったのだった。 2013/07/30 |
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