| 雷雨編 |
| 「うわ、降ってきた!」 自宅まであと十数メートルというところで大粒の雨がバラバラと降り注いでくる。ロイは大事な本を懐に抱え込んで家までの距離を全速力で走った。黒い門扉は開けっ放しで玄関のポーチに飛び込む。何とか濡れずに済んだといえる程度の濡れ具合で家にたどり着くことが出来て、ロイはホッと息を吐いた。 「よかった、間に合った……」 用事を済ませて最後に古書店に寄る前から雷がゴロゴロと鳴りだし、どうしようかと迷ったもののどうにも本の虫が収まらず寄ってしまった。それでも不気味に鳴り続ける雷の音に急かされて、普段よりはずっと短い時間で古書店から出たのが幸いしたらしい。ロイは肩に着いた水滴を手で払うと鍵を開け中に入る。その途端ピカッと稲光が煌めいて、バケツの底が抜けたように雨が降り出した。 「いやはや……危なかったな」 この雨の中帰ってきたら折角の本が台無しになるところだった。ロイは笑みを浮かべて中へと入っていく。明かりの消えたリビングは昼だというのに薄暗く、ロイは手を伸ばして灯りのスイッチを押した。大事に庇ってきた本をテーブルに置き、キッチンに行くと水を飲む。やれやれとため息をついたロイは、コップをシンクに入れキッチンを出た。 「まだ寝てるのか?」 ロイが家を出るときハボックは寝室の寝床でクッションに埋もれて眠っていた。だから声をかけずに出かけてしまったのだがまだ眠っているのだろうか。 ロイはリビングを出て二階への階段を上がる。家の中にいても雨が叩きつけるように降る音と雷がゴロゴロと鳴る音が響き渡り、時折ピカッと光る稲光が窓越しに家の中を不気味に照らしていた。 「ハボック?」 ロイは寝室の扉を開けて中に向かって声をかける。壁際に置かれたハボックの寝床に目をやれば、クッションの山の中からフサフサの尻尾だけが覗いていた。 「ハボック」 雨の音にかき消されないよう、ロイは少し大きな声でハボックを呼ぶ。そうすれば震えていた尻尾がピンッと立ったと思うと、ハボックがクッションの山の中から顔を出した。 「ろーい〜〜〜ッッ」 ロイの顔を見た途端、ハボックがボロボロと泣き出す。クッションの中に座り込んでわんわんと泣き出すハボックを、ロイは手を伸ばして抱き上げた。 「ろーいーーーっっ!!」 その途端、ハボックが小さな手でポカポカとロイを叩く。そんなハボックをギュッと抱き締めて、ロイは苦笑した。 「悪かった、すぐ帰るからわざわざ起こさなくてもいいと思ったんだよ」 まさかこんな雷雨になるとは思っていなかった。その時、一際大きな雷がガラガラピシャーンと落ちる音がして、ハボックがロイの腕の中で飛び上がった。 「ッッッ!!!」 「ああ、大丈夫だ、ハボック」 怯えて全身の毛を逆立てるハボックの背をロイは宥めるように撫でる。ブルブルと震えてしがみついてくる小さな体を抱き締めれば、一人置いて出かけてしまったことに罪悪感が込み上げてきた。 「一人にして本当に悪かったな。怖かったろう?」 「ろーいっ」 屋根に叩きつける雨の音と鳴り響く雷鳴と刺すような稲光は、家の中にいても相当怖いものだったに違いない。 「あったかいミルク……というわけにいかんか。とにかく下に行こう」 ロイはそう言ってハボックを抱いたまま階下に降りる。冷蔵庫に入れておいた井戸水を出そうとハボックを下に下ろそうとすれば、ハボックが両手両足をロイの体に絡めてしがみついてきた。 「ハボック」 「ろいっ」 しがみついて離れようとしないハボックにロイは苦笑する。 「判ったよ、下ろさないから少し弛めてくれ」 「ろいっっ」 だが、ハボックはふるふると首を振ってますますしがみついてくる。思った以上に怖い思いをさせてしまったのだと、ロイはハボックを抱き締めて金色の犬耳に優しくキスを落とした。 「大丈夫。ここにいるから」 「ろーい……」 涙に濡れた頬をすりすりとすり付けてくるハボックに笑みを浮かべて、ロイはソファーに腰を落とす。そうして小さな体を抱き締めていれば、雨と雷の音も相まって世界に二人きりのような気になったロイはクスリと笑みを零した。 「ろい」 「すまん」 その途端涙に濡れた空色に睨まれて、苦笑したロイはハボックの小さな体を腕の中に囲い込む。そうすれば漸く安心したように、ハボックは一つ息を吐いて目を閉じた。 そうして雨と雷の音が小さくなって聞こえなくなるまで、ロイはハボックをずっと優しく抱き締めていたのだった。 2013/09/05 |
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