| 降誕祭編 |
| 「ろーい〜」 リビングの扉を開けて中に入れば、紙袋を手にうろうろと部屋の中を歩き回っていたハボックが飛びついてくる。ロイは外から帰って冷たくなった手でハボックの髪をくしゃりとかき混ぜて言った。 「すまん、ハボック。待たせたな」 「ろーいっ」 言われてハボックはぷぅと頬を膨らませる。もう一度すまなかったと謝って苦笑するロイに、ハボックは手にした紙袋を押し付けた。 「判った、判った。すぐ着替えさせてやるからちょっと待ってくれ」 ロイはそう言うとキッチンに行き湯を出す。温かい湯の下に手を出して温めれば、冷え切っていた手がじんじんした。 今日はハボックを連れてクリスマスのイベントを見に行く約束をしていた。だが、滅多にない急用で出なくてはいけなくなり、ロイはなるべく早く帰るからと言って出かけていたのだった。 「お待たせ、ハボック」 冷たくなっていた手を温めて、ロイはリビングに戻る。そうすれば二人で一緒に飾り付けたツリーを見上げていたハボックがパッと振り向いた。 「ろーいっ」 駆け寄ってきたハボックが差し出した紙袋を今度は受け取って、ロイはハボックの前に跪く。紙袋から綺麗な水色のセーターを取り出した。 「ろーい」 「ヒューズの見立てと言うのが気に入らんが」 自分の瞳と同じ色のセーターを嬉しそうに見つめるハボックにロイはそう呟く。ヒューズがクリスマスプレゼントだと送ってきたセーターは背中で結ぶ腰のリボンがアクセントで、白いハーフパンツとブーツに合わせるとフワフワと軽やかな感じがハボックの好みにドンピシャだった。 「ろーいっ」 「はいはい、判ってる」 急かす声にロイはハボックが着ているトレーナーとズボンを脱がせる。 「どうせコートは着たくないと言うんだろう?」 可愛い服がコートで隠れるのを嫌がるのを察して、ロイはTシャツを着せてからセーターを着せる。空色のセーターは着ると本当に瞳と同じ色なのが判って、ロイの脳裏にヒューズの得意気な髭面が浮かんで、ハボックの嬉しそうな様子と裏腹にロイの眉間の皺が深まった。 「ろーいっ」 「来年は私が買ってやるからな」 くるんと回って見せるハボックにロイが言う。白いフワフワの耳当てをつけてやればハボックが擽ったそうに首を竦めた。 「よし、行くか」 「ろいっ」 ロイの言葉に答えて、ハボックがリビングを飛び出していく。パタパタと玄関に行くとクルリと振り向いてロイが来るのを待った。 「ろーい」 ハボックはゆっくりとやってきたロイの手を取り玄関の扉を開ける。ロイが鍵を閉めるのももどかしく繋いだ手を引っ張って歩き出すハボックに、ロイはクスクスと笑った。 「そんなに慌てなくても大丈夫────すまん」 言いかけた途端ギロリと空色の瞳に睨まれて、待たせた身としては謝るしかない。やれやれと苦笑して、ロイは引っ張るハボックに合わせて足を早めた。 「ろーい」 夕暮れ時、クリスマスの街は色とりどりの飾りでキラキラと輝いている。同じようにキラキラと目を輝かせたハボックはクリスマスのディスプレイがなされたショーウィンドに駆け寄った。 「ろーいー……」 空を翔るソリに乗ったサンタのディスプレイをハボックはうっとりと見つめる。月と星が輝く夜空をいくソリは幻想的で、ガラスに張り付くようにして見つめているハボックにロイはクスリと笑った。 「今年もサンタが来るかな」 「ろーいっ」 そう言ってハボックの金髪をぽんぽんと叩く。ロイを見上げて、それからディスプレイを見るとハボックはサンタに向かって小さな両手を合わせてお願いした。 「ろーい……」 そんなハボックを見ればその一生懸命な可愛らしさに思わず笑みが零れる。フゥと息を吐いてもう一度ディスプレイをじっと見たハボックが差し出してきた手を繋いで、ロイは再び歩きだした。時折足を止めてディスプレイを覗き、サンタの格好をした店員からお菓子を貰う。たまたま通りかかった店で奥の方に大きな雪だるまのぬいぐるみが見えて、ハボックはロイの手を離して中へと駆け込んだ。 「ろーい」 雪だるまのお腹をハボックはぽんぽんと叩いてロイを見上げた。 「これはぬいぐるみだな。雪じゃないから溶けないんだ」 尋ねる視線にロイが言えば、ハボックは嬉しそうに笑って雪だるまをギューッと抱き締めた。暫く雪だるまとじゃれていたが、名残惜しそうにしながらも雪だるまを離して店の中を歩き出す。クリスマスグッズでキラキラとした店内を見回しながら歩いていたハボックの足がピタリと止まった。 「ろーい〜」 ハボックが足を止めたのは小さなクリスマスキャンドルのセットの前だ。少しずつ色の違うキャンドルが五十ほども詰め合わされたセットはカラフルでとても綺麗だった。 「プレゼントしようか?」 近づきながらロイが言えば、ハボックがパッと振り向く。目を見開いて見上げてくる空色に頷くと、ハボックがパアッと顔を輝かせた。 「ろーいっ」 喜んで抱きついてくるハボックの背中を叩いて、ロイはキャンドルのセットを一袋取り上げてレジに向かう。袋の持ち手にリボンを結んで貰ってプレゼント仕様にすれば、ハボックが嬉しそうに笑った。 「重いから一緒に持とう」 ハボックが持とうとするのを手を伸ばしてロイは言う。繋いでいた手の間にキャンドルの袋を持って、二人は店を出て通りを歩いていった。程なくしてイベント会場であるスケートリンクにつく。去年見た音楽に合わせて妖精たちが踊るアイスショーをハボックはとても気に入っていて、今年も見ようと楽しみに出かけてきたのだった。だが。 「ろーい」 「おかしいな、どうしたんだろう」 時間がきてもリンクは暗いままだ。観客たちがざわざわとし始める中、不安げに辺りを見回していたロイとハボックの耳に誰かが言う声が聞こえた。 「設備の故障だって。灯りがつかないらしい」 「故障?」 その声にロイが眉をしかめる。ハボックに「ここにいろ」と言いおいて様子を確かめにいったロイは、ハボックのところに戻ってきて言った。 「機械の故障らしい。いつ直るか判らんそうだ」 「ろーい〜〜」 そう言った途端、ロイを見上げていたハボックが顔をくしゃくしゃにする。泣き出しそうな様子に、ロイはため息をついた。 「そう言われてもなぁ……」 困ったなと眉を寄せたロイは、ふと持っていたキャンドルセットを見下ろして「あ」と目を見開いた。 「ハボック、このキャンドル使ってもいいか?」 ロイはハボックの前に膝をついて尋ねる。一瞬目を見開いて、だがハボックはすぐに笑みを浮かべて頷いた。 「ありがとう、ハボック。おいで」 ロイは礼を言って立ち上がるとハボックの手を引いてイベントの責任者のところへと行く。思いついた考えを提案すれば最初は迷っていた責任者も最後には笑って頷いた。ハボックの前にひざまずいて責任者の男が言う。 「ありがとう、使わせて貰うね」 「ろい」 コクンと頷くハボックの頭を撫でて、男はキャンドルを受け取って出演者達が控えている場所へと歩いていった。 「上手くいくといいんだが」 男が出演者達に説明するのを遠目に見ながらロイが呟く。ハボックはそんなロイを見上げて、それから出演者達を見た。 ざわつく場内、暫く待っているとシャンと鈴の音が聞こえてくる。最初は小さかった鈴の音はだんだんと大きくなり、それにつれて場内のざわめきが小さくなっていった。暗がりにポウと小さな火が灯ったと思うとその火がゆっくりと滑り出す。キャンドルを手にした雪の妖精が現れてクルリと回ると奥に向かって手を差し出した。そうすれば。 ポ。ポポポ。と、たくさんのキャンドルに火が灯る。キャンドルを手に次々と妖精や動物達が姿を現わせば観客の間から歓声が上がった。 リンクの上を鈴の音を響かせてキャンドルを手にした妖精や動物達がクルクルと回り軽やかにジャンプする。幻想的な光景にそこここから歓声と感嘆の溜息が聞こえた。 ハボックはと言えば空色の瞳を大きく見開いて口をポカンと開けて見入っている。その前に妖精の一人が滑ってきたと思うと、ハボックに手を差し出した。突然の事に目をまん丸にしたハボックは尋ねるようにロイを見上げる。ロイがにっこりと笑って頷くのを見て、ハボックは妖精が差し出した手を取った。ハボックがリンクに降りれば他の妖精や動物達も寄ってくる。次々と差し出される手に引っ張られて、ハボックはリンクの上をくるくると回った。 「ろーいーっ」 キャラキャラと笑ってハボックがリンクの上から手を振る。ロイは手すりに寄りかかるようにしてそれに手を振り返すと、他の観客達と一緒に幻想的なショウを楽しんだ。そして。 滑り疲れて眠ってしまったハボックを背負ってロイは家への道を歩いていく。キャンドルを使ったショウは大成功でキャンドルを貸してくれたお礼に何かあげると言われたハボックは、妖精が持っていた花の飾りがついたステッキを貰って大喜びだった。 残りのキャンドルを持ちハボックを背負って歩いていたロイはひんやりとした空気にふと顔を上げる。すると、真っ黒な空から白いものがひらひらと舞い落ちてきた。 「ハボック、雪だ」 そう言えば、背中でもぞもぞと動く気配がする。 「ろぉい……」 小さく呟く声と共にハボックに「ありがとう」と言うようにキュッとしがみつかれて、ロイは嬉しそうに目を細めると雪がチラチラと降る通りを歩いていった。 2013/12/25 |
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