第四十二話


「凄い風だな」
 ビョオと吹き付けた風がガタガタと大きく窓ガラスを鳴らすのを聞いて、ロイは読んでいた本から顔を上げる。窓枠にしがみついて外を見ていたハボックが眉を寄せてロイを振り向いた。
「ろーいー」
 悲しそうに口をへの字に結ぶハボックの向こう、窓の外では淡く色づく花びらが沢山舞っている。丁度見頃の八重桜の花が強い風で散らされているのだと気づいてロイは言った。
「仕方ないな、この風じゃあひとたまりもないよ」
「ろーい……」
 ロイの言葉にハボックがガッカリと肩を落とす。そう話す間にも風は強さを増して吹き荒れて、ビリビリと震える窓ガラスを見てロイは眉を顰めた。
「鎧戸を閉めておいた方がいいかもしれんな」
 この強風で飛んできた物が窓に当たりでもしたらガラスが割れて怪我をしかねない。ロイは本を置いて立ち上がると窓に近づき強風に震える窓を開けた。その時、一際強い風が吹き付けロイは咄嗟に腕を翳す。そのロイの隣でぴゃと短い悲鳴が聞こえて、ロイは慌てて横を見た。すると。
 吹き付けた強風でハボックの体がフワリと宙に浮く。慌てて伸ばしたロイの手はハボックに届かず、軽い体は吹き付ける風に乗って壁に叩きつけられそうになった。
「危ないッ!」
 壁に叩きつけられる寸前、ハボックがポンと黒い毛糸玉になる。柔らかい毛糸玉は壁にポンと弾むと、そのまま床に落ちた。
「ハボック!」
 ロイはハボックを肩越しに振り返りながらも鎧戸に手を伸ばして風の勢いに逆らって閉め、窓も閉ざす。そうしておいてから床に転がる毛糸玉に駆け寄れば、ポンと弾けた毛糸玉がハボックの姿に戻った。
「ろ〜い〜」
「大丈夫かっ?ハボック!」
 クラクラと目を回していたハボックは、ロイの声にふるふると首を振る。パチパチと瞬いてハボックはロイに腕を伸ばした。
「ろーい」
「怪我はないか?……よかった」
 ホッと息を吐くロイにハボックがにっこりと笑ってしがみつく。柔らかい金髪を撫でながらロイは言った。
「鎧戸を閉めようと思ったんだが、すまなかったな、ハボック」
「ろい」
 花が吹き散らされるのはともかく、まさか部屋の中でハボックが吹き飛ばされるとは思わなかった。
「確かにこんなに軽いものな」
 腕の中のハボックの体は羽のように軽い。ロイがそう思いながらハボックを見つめた時、吹き荒れる風にガタガタと大きな音を立てた鎧戸にハボックがビクリと震えた。
「ろーい〜」
「家中の鎧戸を閉めて、今日は大人しくしておいた方が良さそうだ。ハボック、お前はここで待って」
 いなさいと言う前にハボックにギュッとしがみつかれてロイは苦笑する。
「判った、判った。しっかり掴まっていろ」
「ろーいっ」
 言われてハボックがロイのシャツの中に潜り込むのを見届けてロイは家中の鎧戸を閉めて回った。


2013/04/19


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