| 第四十一話 |
| 「ろーい」 風もなくポカポカと暖かい午後、庭のカウチに腰掛けて本を読んでいれば、ハボックが前を押さえるようにしながらパタパタと走り回っている。本から顔を上げたロイはちょっぴり困ったようなその様子に「ああ」と頷いて立ち上がった。 「おしっこか。おいで」 本を横に置いたロイに手招きされてハボックはロイの側に駆け寄ってくる。ロイがハボックの前に跪きショートパンツと下着を脱がせてやれば、ハボックは庭の隅にしゃがみ込んでちーっとおしっこをした。 ハボックは時折こうして体の中にたまった水分を排出する。見た目とその方法が人間が用を足すのに似ているからロイはそれを「おしっこ」と呼んでいるが、実際のところそれは所謂「小水」とは全く違うものだ。 ハボックはそもそもの姿である毛糸玉の時は全く飲み食いしない。子供の姿である時も井戸の水しか飲まず、どうやら飲んだ水が溜まってお腹がぱつんぱつんになって苦しくなるとそれを出しているようだった。だからハボックのおしっこは無味無臭だ。色もなければ匂いもしない、ただの透明な水で、だからこそ飲んだ水をそのまま出していると考えられた。 「ろーい」 「済んだか」 すっきりした顔をして戻ってきたハボックにロイはパンツとズボンを穿かせてやる。するとその時、ハボックが「ぷ」とおならをした。 ぷぷ。 ぷぷぷ。 「ろーい〜」 続けざまにおならが出て、ハボックは困ったようにロイにしがみつく。そんなハボックをロイは抱き締めてクスリと笑った。 「沈丁花の花が咲いたのか」 ロイはハボックのおならの匂いを嗅いで言う。物を食べないハボックのおならは臭くなく、ハボックが吸い込んだ色んなものの匂いそのものがした。それは時に果物の甘い匂いであることもあり、ロイが飲んでいるコーヒーの香りであることもある。様々な花が咲き出すこの季節は花の香りであることが多かった。 ロイはハボックを抱き上げるとゆっくりと庭を歩いていく。庭の片隅に植わっているこんもりとした木に小さな花弁の尖った花が沢山咲いて、そこから独特な甘い香りがしていた。 「ろーい」 「うん、いい香りだな」 すぅっと大きく息を吸い込んで言うハボックにロイが頷く。次々と開いた花の事はハボックが教えてくれるだろう。 「次は何が咲くかな、木蓮か?チューリップか?咲いたら教えてくれよ、ハボック」 「ろーいっ」 庭の木々を見回して言うロイにハボックが元気よく頷いた。 2013/03/11 |
| → 第四十二話 |