第三十七話


 二人で手を繋いで歩いていけばやがて商店が建ち並ぶ通りへと出る。クリスマスを間近に控えた街は、色とりどりの飾りに彩られ華やいでいた。
「…………」
 ロイの手を握ったままハボックは辺りを見回す。店先から流れるクリスマスソングや煌びやかな飾り付けに、ハボックが空色の瞳を見開き口を半開きにして魅入っているのを見て、ロイはクスリと笑った。
「綺麗だろう?ハボック。」
 そう言うロイの声も聞こえていないようで、ハボックはキラキラと輝く街を見つめる。ハボックはロイの手を離すと近くの店のショーウィンドウを覗き込んだ。そこには雪を被った街が作られ、行き交う人や車が再現されている。その街並みの一角、トナカイが曳くソリに乗ったサンタが空を翔ているのを、ハボックは目を丸くして見つめた。
「ろーい?」
「それはサンタクロースだよ、ハボック」
 不思議そうに見上げてくるハボックにロイが言う。尋ねるように小首を傾げるのを見て、ロイは続けた。
「クリスマスイブにイイコに過ごした子ども達のところへトナカイが曳くソリに乗ってプレゼントを届けにくるんだ」
 ロイはそう言ってガラス越しにソリに積まれた白い大きな袋を指す。
「ほら、大きな袋を持っているだろう?この中にプレゼントが詰まってるのさ」
 そう言われてハボックはサンタクロースのディスプレイを見つめた。
「何かお願いしてごらん、きっとサンタがプレゼントを持ってきてくれるよ」
 その言葉に顔を輝かせてロイを見上げたハボックは、もう一度ガラスに貼り付くようにしてディスプレイを眺める。楽しそうなその様子にハボックの金髪をくしゃりと掻き混ぜたロイは、ハボックを促して言った。
「ハボック、向こうに行こう。凄いものがあるんだ」
「ろーい」
 ロイの言葉に頷いてハボックはロイの手を握る。途中サンタに扮した男がおどけた調子で風船をくれるのを目をまん丸にして受け取って、ハボックはその空色の瞳に街の輝きを映して歩いていった。
「ハボック、ほら、着いたぞ」
 角を曲がりながら言うロイについて曲がったハボックは、視界に飛び込んできた大きなツリーに目をまん丸に見開いた。
 角を曲がった広場には特設のスケートリンクがあり、その真ん中にはそれは大きなツリーが据えられている。二階の屋根より高いツリーには電飾が無数に取り付けられ、夜の闇の中キラキラと輝いていた。
「ろーい……」
「綺麗だろう、お前に見せてやりたくてな」
 そう言うロイの言葉を聞きながら、ハボックはロイの手を離してツリーに近づいていく。リンクに足を下ろせば足元の氷にツリーの煌めきが映って、下からもハボックをキラキラとした煌めきが包んだ。
「ろーいっ!」
「はは、気に入ったか?」
 嬉しそうに振り向くハボックにロイはリンクを囲む柵に寄りかかって言う。ハボックは満面の笑みで頷くと氷の上でツリーを見上げながらクルクルと回った。
「ろーい〜」
 あんまり回って目も回って、ハボックはステンと尻餅をつく。尻餅をついたままで更にクルクルと回転して、ハボックは楽しそうに笑った。
「ろーいっ!」
 ハボックは氷の上に座ったままロイを呼ぶ。ロイは少し迷ってから風船を柵に括り付け、革靴のままリンクに降り立った。
「革靴だから滅茶苦茶滑るんだがな……」
 ロイはそう呟きながらおっかなびっくり歩いてハボックの所へやってくる。伸ばしてくる小さな手を掴んでハボックを引っ張り起こすと抱き上げた。
「ろーいっ」
 キュッとロイにしがみついたハボックは、周りを滑っていく人達を指差す。どうやら一緒に滑れと言っているらしいと察して、ロイは眉を下げた。
「生憎スケート靴は持っていないぞ」
「ろーいーっ」
 だが、それでも楽しそうに目を輝かせているハボックに強請られれば、ロイはゆっくりと歩き出した。
「ろーい!」
「無茶言うな、革靴なんだぞ、そう簡単にスピードを上げられるか」
 ロイはそう言いながらも氷の上で走る。その途端ツルンと滑って、ロイはハボックを抱いたまま尻餅をついた。
「うわっ!」
 悲鳴を上げるロイを面白がってハボックがきゃらきゃらと笑う。そんなハボックにゴツンと額をぶつけて顔をしかめて見せたロイは、氷に座り込んだまま頭上のツリーを見上げた。
「ハボック、真下から見ると凄いぞ」
 その言葉にツリーを振り仰いでハボックが目を見開く。緑の枝に無数に取り付けられた灯りがキラキラと輝いて、まるで空から星が降ってくるかのようだった。
「ろーい」
 暫くの間それを見ていたハボックが、ロイの頬にチュッとキスする。嬉しそうに笑う空色に、ロイもまた嬉しそうに笑った。
「お前と一緒に見られて嬉しいよ、ハボック」
「ろーいっ」
 答えてキュッとしがみついてくる小さな体をロイは抱き返す。
「よし、もう少し滑るか」
「ろいっ」
 ロイは笑ってそう言うとハボックを抱いて立ち上がった。そうして輝くツリーの下を二人でいつまでも滑って遊んだのだった。


2012/12/20


→ 第三十八章