第三十五話


「ん?なんだ、見たいのか?ハボック」
 古い資料をセロテープで丁寧に修繕していれば、パタパタと部屋に駆け込んできたハボックが、ロイが資料を広げているテーブルにしがみつくようにしてロイのしていることを覗く。ロイはハボックを膝の上に乗せてやるとセロテープの台を引き寄せた。
「これはセロテープだよ。裏がベタベタしていて、二つのものを貼り合わせる事が出来るんだ」
 ロイはそう言ってセロテープをピーッと引き出し紙を繋げるように貼り合わせる。一枚になった紙を持ち上げて見せれば、ハボックが目を輝かせた。
「ろーいっ」
「やってみるか?いや、ちょっと待て待て」
 流石に大事な資料を任せる訳にはいかない。ロイは早速資料に手を伸ばそうとするハボックを制して下に下ろすと立ち上がり、棚から綺麗な折り紙を出してもってきた。
「これなら好きな大きさに切ったり貼り合わせたりしていいぞ」
 ロイはそう言って折り紙をテーブルの上に広げる。赤い折り紙と青いのとを細長く手で千切ると、セロテープで端と端をくっつけた。
「ほら」
 繋げた折り紙をハボックの目の前でヒラヒラとすればハボックの頭にピンと犬耳が立ち上がり尻尾が飛び出る。すっかり興奮しているハボックにロイはため息をつきながらもハボックに椅子を譲り、自分は別の椅子に腰掛けて資料の修繕を続けた。
 コチコチと時計の音が響く部屋の中で、紙を捲ったりテープをピーッと引き出す音がする。暫くして最後のページを文字がきちんと形になるように貼り合わせて漸く資料の修繕を終えたロイが長い吐息と共に顔を上げれば、そこにハボックの姿はなかった。
「ハボック?」
 テーブルの上には様々な形に千切った折り紙が貼り合わせたままに広げられている。
「なんだ、もう飽きてしまったのか?」
 折角折り紙を出してやったのにと、何故だか酷くがっかりした気持ちにロイがなりかけた時、パタパタと軽い足音がしてハボックが部屋に飛び込んできた。
「ろーいっ」
「ハボック」
 声に振り向けばハボックは両腕にいっぱい落ち葉を抱えている。腕に落ち葉を抱えたまま椅子に上れず「むーん」と考え込むハボックを見て、ロイはハボックの両脇に手を入れて軽い体を持ち上げると椅子に乗せてやった。
「ろーい」
 ありがとうと言うようにロイに笑いかけて、ハボックは抱えていた落ち葉をテーブルに広げる。手のひらでガサガサと広げた落ち葉を探って真っ赤に色づいた紅葉と黄色の銀杏を取り出した。それを並べてテーブルに置くと慎重に貼り合わせる。上手く繋がると次はまだ緑が少し残る葉を取り上げ銀杏の隣に繋げた。更に茶色になった葉を今度は紅葉の上に繋げる。その隣にもう一枚、更に隣に一枚と貼り合わせれば六枚の落ち葉が繋がって四角になった。
「ろーいっ」
 繋がった落ち葉をハボックが自慢げにロイに見せる。少しずつ色が違う落ち葉を繋げればそれは見事なグラデーションを描いて一枚の絵のようだった。
「凄いな、ハボック。折り紙も綺麗だがこっちの方がもっと綺麗だ」
 よく思いついたなと金色の頭を撫でてやれば、ハボックが嬉しそうに目を細めて金色の尻尾をフサフサと振る。
「私もやってもいいか?二人で一緒にもっと大きくしよう」
「ろーいっ!」
 ロイの言葉にハボックが空色の瞳を輝かせた。
「ろーい?」
「赤と黄色が混じってるのか、いいじゃないか。私はこれを繋げようと思うんだがどうだろう」
「ろいっ」
 ああだこうだと言い合いながら、二人は大きな秋のタペストリーを作り上げていった。


2012/11/20


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